■里親制度の普及啓発、里親里子の支援をしているNPO法人「優里の会」の西川さんに、本市の里親の現状について聞きました
・認定特定非営利活動法人 優里の会西川 伸一郎さん
◇人吉市には里親が足りない
平成29年4月に改正児童福祉法が施行され、生みの親が養育できない子どもは、養子縁組や里親など家庭と同じような養育環境で継続的に養育されることが原則になりました。社会的養護の中で、より里親が重視されている時代になっているといえます。令和4年3月末時点で県南地域には里親に56人が登録していますが、人吉市の里親は5人程度と、人口比で見ても非常に少ない地域です。また、人吉球磨には乳児院や児童養護施設などの施設がありません。さまざまな事情で親元を離れ、施設で暮らすことになった子どもは近くても八代市や水俣市の施設に行かなければならず、そうなると通う学校や友達から離れることになります。最近は高校生の転校先が問題で、施設がある地域の高校に、現在通う学科と同じ学科があるとは限りません。そのような状況から見ても、人吉球磨は里親の存在が不可欠です。社会的養護が必要な子どもは、戸惑いながら生活しています。里親はそんな子どもたちが家庭で当たり前の生活を送るための制度。この当たり前を保障するためには、子どものニーズに合った里親の存在が必要です。
いずれは各町内会に1人は里親がいて、地域のみんなの理解を得ながら堂々と里親になれる社会になるよう、私たちも取り組んでいきます。
◇教えて西川さん!里親Q and A
「里親に興味はあるけど、ここが不安」「ここの部分はどうなっているの?」といった里親についてのよくある質問に答えます!
Q:共働きでも里親になれますか?
A:児童の養育にふさわしい範囲での共働きはOKです。独身でも子どもを育てたいという強い愛情と要件を満せば里親になれます。
Q:里親に年齢制限はありますか?
A:原則としてありません。身体的・精神的・経済的に安定した養育が可能な年齢であるか考慮される場合があります。
Q:実子がいても里親になれますか?
A:なれます。里親を始めるときは、実子に里親になることを伝え、実子の理解を前提に新しい家族を迎え入れるのが理想です。
Q:子どもを受け入れたときの名前はどうなるの?
A:基本的には、子どもの意思に従います。実の名字を使いたくないという子どもの場合は里親の名字を使うことがあります。
■里親からの声
2年前から里親として活動している球磨郡多良木町の山田さん夫婦に、やりがいや子どもに対する思いを聞きました。
・山田信雄(のぶお)(75)・久美子(くみこ)(66)さん(球磨郡多良木町)
◇里親になったきっかけ
ちょうど両親の介護が終わった頃、里親募集のポスターを見かけたのをきっかけに、いろんな境遇の子どもたちの人生に少しでも役立つことができたらと思い、里親に興味を持ちました。
電話で里親支援センターに相談し、研修を受けて里親に登録。受け入れる子どもとのマッチングを経て、令和4年12月に初めての里子を受け入れました。その子は中学3年生の女の子。高校進学の事情でわずか4カ月の受け入れでしたが、コミュニケーションの取り方など学ぶことが多く、とても貴重な経験になりました。成人した6人の我が子に里親を始めたいと相談したときは本当にできるのかと心配されましたが、今では私たちの楽しそうな様子に、徐々に理解を深めてくれるようになりました。
◇家族の一員として
生まれたての赤ちゃんを含め、現在一緒に暮らす中学生の女の子まで、これまで4人の子どもたちと生活してきました。赤ちゃんはただただかわいくていとおしいばかりでしたが、中学生になるとそうはいきません。ある日突然、一緒に暮らすことになったわけですから当然です。相手の気持ちをくみとったつもりでも、実はまったく理解できていなかったり、こちらの気持ちをうまく伝えられなかったりなどは日常茶飯事。そんな場面を打開してくれるのは、朝のあいさつなど日常のさりげないコミュニケーションです。里子だからといって特別に気を遣うのではなく、家族の一員として普通に接することが一番大切だと感じています。
◇安心して里親になれる環境
里親支援センターゆうりが手厚いサポートをしてくれます。里子とのマッチング、里子を受け入れている間の相談・訪問など、とても助かっています。心理士にも相談できるので、安心して活動することができます。人吉球磨では少しずつ里親が増えてきているので、里親同士のコミュニティもこれから充実してくることでしょう。里子を受け入れてからも、少し子育てを休みたい、急な用事で子どもを誰かに預けたいと思った時には、ほかの里親に一時的に預けることができるサービスもあるので安心です。
◇誰かの人生の1ページに
これまでの里親生活を振り返ってみると、「楽しかった」の一言につきます。特に新生児から預かったケースでは、日々育っていく命と向き合い感動の連続でした。里親をやってみたいと思った人は、ぜひ一歩踏み出してください。里親になって困ったことがあっても、支えてくれる人たちがたくさんいます。
巡り合うことがなかったかもしれない誰かの人生の1ページになれるなんて、素敵なことではありませんか。私たちの力はほんの小さなものですが、それでも必要としてくれる子どもがいます。一人でも多くの人が里親制度に興味を持ち、地域みんなで一緒に子育てできる社会になることを願っています。
■里親支援センターとは
里親制度を知ってもらうための広報や普及啓発活動、里親になる人への説明会などをはじめ、子どもを受け入れた後の相談や里親家庭を巣立った子どもへのアフターケアなど、里親家庭やそこで生活する子どもへの包括的な支援を行う機関です。
県南地域は、県からの委託を受けた「県南里親支援センターゆうり」が担当。同センターでは令和5年度に県南の里親家庭を208回、子どもを83回訪問しました。里親の悩み事などを気軽に相談できる環境を整えていますので、安心して里親として活動することができます。
(県南里親支援センターゆうり 人吉球磨訪問担当 西 紫(ゆかり)さん)
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