今、誇るべき郷土の伝統を継承していけるかが危ぶまれています。
日常であった伝統文化は、時代の変化と共に、多くの娯楽の中に埋もれてしまったのかもしれません。
伝統文化を継承していくべき子どもたちも、勉強に習い事、ゲームや動画と興味を引くものがたくさんある中で、伝統文化に触れること自体が少なくなりました。
伝えていきたい
残していきたい
伝統の中に流れる、心と誇りを
今回は、8月に開催される子ども芸術祭の舞台で披露する3つの団体にお話を伺いました。
そこには、その灯を受け継いで伝承する人と、それに真剣な眼差しで応える子どもたちがいました。
■宇土雨乞い大太鼓 保存会青年部 副部長 小篠幸平(おざさこうへい)さん(35)
「全てのものには繁栄と衰退があるといわれるように、太鼓も江戸時代にできたもので、一度は途絶えてしまいました。しかし、叩き手はいなくなっても、形や太鼓本体が残っていたので、復活することができました。」そう話す小篠さんは、30年以上の歴史ある青年部の副部長として太鼓の保存、継承に力を入れている。「青年部の歴史が長くなってきた分、プロの方からいただいた楽曲や楽器が増え、後世に残していくべきものが増えてきました。それをちゃんと継承していけるように裏方で支えていきたいです。」
さらに、叩き手の育成にも力を入れている。毎年行われている「太鼓教室」では、メイン指導者として多くの小学生に太鼓の指導をしている。「一番大切にしているのは、受講生たちの交流。休憩時間を増やし、受講生たちや指導者が交流を深めやすい環境づくりを目指しています。」実際、受講生たちの間でも好評で、楽しかったとリピートする受講生が多いという。
「受講生たちが楽しみとして教室に来てくれ、少しでも太鼓のことを好きになってくれると嬉しいです。」
■宇土御獅子組 頭元 櫻田竜次(さくらだりゅうじ)さん(44)
「子どもの頃から御獅子舞に憧れがあった。」そう話すのは、宇土御獅子組で頭元を務める櫻田さんだ。櫻田さんが子どもの頃の御獅子舞は、本町一丁目の住民だけで引き継がれているもので、やりたいと思ってもできなかったという。その後、本町一丁目の担い手が減少し、存続が危ぶまれたことから、制限が緩和され、加勢人として本町一丁目以外の人も参加できるようになった。
宇土の御獅子舞には、「御」がついている。これは、当時宇土のお殿様だった細川興文公が西岡神宮に獅子舞の奉納をされたことに由来している。櫻田さんは、「284年の歴史がある御獅子舞という伝統の一員になれたことが嬉しかった。」と誇らしげに話す。284年間、途絶えることなく受け継がれてきた御獅子舞。譲れない伝統を守りながらも、時代に合わせ変化してきた。
伝統芸能は、どこも後継者不足が課題。やりたいと思う人を作ることが必要だと櫻田さんは話す。「獅子の優雅な舞方をみて、かっこいい、自分もやりたいと思ってもらえるような舞にしたい。」御獅子舞は、これからも多くの人から愛される伝統芸能として長く繁栄していくだろう。
■子ども芸術祭に出演する小学4年生の3人にインタビュー
水口聖稀(いぶき)さん、松本康平(こうへい)さん、沼田駿斗(はやと)さん
◇御獅子舞を始めたきっかけは
(沼田)他の習い事をしていた時に誘われて、見学に行ってかっこいい、自分もやってみたいと思ったので始めました。
(松本)父が獅子をやっているのを見て、自分もやりたいと思いました。
◇練習の様子は
(沼田)みんなで教え合って楽しく練習しています。
◇獅子舞の魅力は
(松本)5・6年生が踊る玉均りが魅力。一人で二匹の獅子を操る姿がかっこいいです。
◇見てほしいポイントは
(水口)最後に側転する場面です。足が綺麗に伸びる側転が決まるように練習を頑張ります。
(みんな)本番は緊張すると思うけど、練習したことが披露できるように頑張ります。
■松山花棒踊り保存会 会長(上松山区長) 桑村久幸(くわむらひさゆき)さん
「松山花棒踊り」は薩摩の棒踊りをルーツとし、武器を模した鍬の柄の6尺棒と、刀を模した木刀などに紅白の花をつけて戦場の激しさを表現した立ち回り。運動会などの地域行事で披露されていたが、2004年頃から活動を休止していた。
3年前に、当時宇土市民会館の館長だった髙木さんと、上松山区の区長だった後藤さんを中心に「120年以上続いてきた地域の伝統芸能の火を消すわけにはいかない」と活動を再開し、地域伝統芸能祭で披露した。
しかし、一度休止した活動を復活させるのは大変だった。現会長の桑村さんは、「踊りの振りは、昔から踊っていたので忘れていませんでした。ただ、人数を集めるのがですね。」と苦笑いする。花棒踊りは、6人1組で行う踊り。市民会館で披露するには、2組12人以上必要だ。地域の協力もあり、初めて踊る人もいる中で、懸命に踊りを完成させた。
8月に開催される子ども芸術祭に向けて花園小でメンバーを公募し、5人が集まった。児童たちは、クラブ活動などで忙しい中、練習に集まる。「子どもたちは振りを覚えるのが早く、いつも驚かされます。せっかく参加してくれたから、楽しく練習してもらいたいです。」練習の合間には恒例のアイスタイムがある。「今日はどこで試合だったと」など会員と子どもたちの交流する場にもなっているようだ。
桑村さんは、伝統芸能は続けることが大事だと話す「伝統は一度途絶えてしまうと、次に復活させるのは難しい。大きくなくていい。小さくてもいいから続けていくことが大事ですね。」
先代から受け継いできた伝統文化が、今ここにあるのは、このまちを想い、伝承する人たちがいるからこそ。地域の誇りである伝統の火を消すことなく、次の時代に繋いでいかねばなりません。
伝統は日常から遠いものになってしまいました。しかし、触れてみると、先人たちの知恵や情熱に気づくことでしょう。まずは見ること、触れること。そこから伝統の息吹を感じて欲しいのです。
伝統に力を注ぐ人たちの熱意と、伝統文化の次代を担う子どもたち。
観てください。
子どもたちの晴れ舞台。積み重ねた修練の成果を披露する真剣な姿を。
感じてください。
このまちに息づく伝統の心を。
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