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湯前歴史散歩 井上微笑のお正月

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熊本県湯前町

明治~昭和初期にかけて、本町を拠点に活動し「九州俳壇の四天王」と称された俳人に井上微笑(びしょう)がいます。今回は微笑の俳句から、大正12年(1923年)のお正月の様子を紹介します。

■元日の朝
「電灯や 夜明けに起きて 初結(はつゆい)す」
初結とは正月に初めて髪を結うことです。元日の早朝から、電灯を灯して、髪を整え、新年を迎えます。当時、すでに微笑の家には電気が通っていたようです。
髪を整えると、外に出て四し方拝(ほうはい)を行います。

「四方拝 針の霜柱 踏んで立つ」
「初空や 四顧(しこ)山ばかり雲ばかり」
「大霜の家白々 年明けにけり」
四方拝は、元日の朝に四方を拝し、五穀豊穣(ごこくほうじょう)・無事息災(ぶじそくさい)などを祈る行事です。「針の霜柱」から厳しい寒さがうかがえます。あいにく空は雲に覆われ、家々は霜で真っ白な中、年が明けました。

■書初め・読書初め
「書初(かきぞめ)の 筆炙(あぶ)り炙り 火鉢哉(かな)」
「硯(すずり)凍る それも目出度(めでた)し 筆初(ふではじめ)」
「二三枚 読書初めの掟哉(おきてかな)」
微笑は俳人らしく、お正月には書初め・読書初めをすることを決めていたようです。硯の墨が凍るほどの寒さもめでたいと言っています。

■年賀状
「一束に くくりて来たり 年賀状」
「月艸(げっそう)に 句なき不足や 年賀状」
「二日また 到着す賀状 誰々ぞ」
お正月の風物詩の一つ、年賀状。微笑のもとにも、束になって年賀状が届いたようです。俳句仲間の月艸からの年賀状には俳句がなくて物足りない。二日にも年賀状の配達がありました。

■蜜柑
「蜜柑(みかん)載せて 初売来(はつうりきた)る 車かな」
「初買(はつがい)の 十銭札や 蜜柑八つ」
「寝乍(なが)らに 蜜柑むき居る 炬燵哉(こたつかな)」
「呵々(かか)我が舌を寒殺す 酸(す)ゆ蜜柑」
蜜柑売りが車に蜜柑を載せて「初売」に来ました。十銭札を出して蜜柑を八つ買います。こたつに寝転がって蜜柑を食べていると、酸っぱい蜜柑に当たり舌を驚かせる微笑。

■焼酎客
「礼者(れいしゃ)二人寄り四人寄り遂(つ)に酒座」
「大盃(たいはい)の屠蘇(とそ)すめば猪口(ちょこ)の 焼酎かな」
「正月の 草家ものものし 焼酎客」
年始の客が2人、4人と集まるとついに酒宴に。お屠蘇を済ますと、チョクで飲む焼酎に切り替えます。
約100年前のお正月ですが、案外今と変わらないところも少なくないのではないでしょうか。

微笑の俳句は『井上微笑句集』(青潮社刊)で読むことができます。
教育課学芸員 松村祥志(しょうじ)

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