■第20回市民公開講座 癌はなぜ悪性なのか
7月8日の市民公開講座には大勢の皆さまにご参加いただき、有り難うございました。今や日本人の2人に1人が癌を患う時代を迎え、癌は最もありふれた病気の1つとなっています。癌が私たちの体におよぼす影響についてご理解頂ければ嬉しく思います。
癌を正しく治療するためには正しい診断が必要です。血液検査やCT、MRI、内視鏡など様々な方法で癌の検査が行われますが、癌の診断を確定するためには患者さんから採取した体の一部を顕微鏡で観察して病気を診断する必要があります。この様な診断を病理診断と呼びます。顕微鏡で観察すると癌細胞には正常細胞とはかけ離れた特徴が見られます。正常の細胞はその細胞が担っている役割に応じた特徴的な形を示していますが、癌細胞の形はバラバラで取り留めがありません。その一方で癌細胞はもの凄い勢いで分裂・増殖しているため、多数の細胞分裂像が認められます。
癌とは私たちの体を構成する細胞が無秩序に増殖する状態(これを腫瘍といいます)の中で、浸潤と転移を示すものと定義されます。浸潤とは無秩序に増殖する細胞が周囲の組織にじわじわと広がっていくことをいい、転移とは別の臓器に移動してそこで増え始めることをいいます。浸潤と転移によって癌は私たちの体全体に広がっていくと同時に正常の臓器を破壊していきます。癌細胞が私たちの体全体に広がるにつれて癌細胞は炎症性サイトカインと呼ばれる物質を産生します。この炎症性サイトカインは私たちの体全体に影響を与えて食欲低下、筋肉量低下、脂肪量低下をもたらして悪疫質と呼ばれる消耗状態を作り出し、予後を悪化させます。
進行してからの癌の治療は難しいですが、早期の癌であれば根治が期待できます。癌の早期発見のために検診を受けるように心がけて下さい。
病理診断科部長 坂下直実
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