■scene3 再生に向けた道筋
《崖っぷち。温泉街を次世代に残すために-》
宿泊者が減少する菊池温泉街でにぎわいを取り戻そうと温泉街リブランディング事業がスタートしました。魅力的な温泉地に生まれ変わるための取り組みが進んでいます。
◇熊本の温泉地の再生モデルに
客が減り続ける温泉街。平成17年の市町村合併時の宿泊客は約23万人。その後、右肩下がりで推移し、令和4年は新型コロナウイルス感染症拡大の影響もあって約12万人と合併時のほぼ半分に留まっています。
官民連携での取り組みは続いていましたが効果は一時的。根本的な解決には至っていませんでした。そんな中、県が温泉を生かした地域づくりのために昨年度から新たに「熊本の温泉街リブランディング事業」を開始。市は温泉街の魅力向上を目的に事業採択を進め、モデル地域に指定されました。
「観光資源を生かして熊本の温泉地の再生モデルになってほしい」と県の後藤啓太郎(ごとうけいたろう)審議員(取材当時観光企画課)は温泉街の将来に期待を寄せます。
今年の3月には再生に向けた「菊池温泉街リブランディング基本構想」を策定。基本構想を基に、旅館の経営基盤の強化や宿泊客が地元の飲食店で食事を取る「泊食分離」の推進、温泉街一帯の景観づくりなどの取り組みが進められています。
◇温泉×豊かな地域資源
今年の10月には、周辺の自然や歴史・文化、食などを生かした体験と温泉を組み合わせた「新・湯治」のモニター調査を実施しました。
従来の「湯治」のイメージである「温泉入浴を中心とした療養」に加え、菊池の自然環境や歴史・文化などに触れることで参加者のリフレッシュ効果を検証することが目的です。
当日は外国人を含め市内外から20人が参加しました。菊池渓谷での森林浴の他、郷土料理作り体験や玉祥寺での座禅体験など、市の魅力を2日間で体験。各日の最後には旅館での入浴体験も行いました。
「温泉の泉質が最高だった」「地域住民との触れ合いが楽しかった」「新しい菊池の魅力を知ることができた」などと参加者の評価も高く、全員が「ストレスが減った」と回答。「今回の体験を家族や友人に勧めたい」と感じた人が全体の8割を超えるという結果が出ました。温泉と地域資源を組み合わせて付加価値を高め、宿泊客の獲得を目指しています。
子育て中の母親をサポートする「産後ケア事業」でも、温泉街の旅館・ホテルを活用しています。温泉を使って、育児に追われる母親たちに心身を癒やしてもらうのが狙いです。令和4年からスタートした事業で、市内の子育て世帯の育児ストレス緩和にもつながっています。
◇これが最後のチャンス
「今の温泉街は崖っぷち。リブランディング事業が再生の最後のチャンスだと思っています」と話すのは、菊池観光協会の松野康(まつのやすし)代表理事。自身も菊池グランドホテルの支配人としてホテル経営に携わっていることから、今の状況に強い危機感を持っています。
「宿泊施設は観光の入り口。市全体の経済活力を高めていくためにも、菊池に宿泊客を始めとする観光客を引きこむことは極めて重要です」と松野会長は続けます。「これまでとは違った新しい視点を取り入れるために若い世代の人たちとも話をしています。次の世代に温泉街を残すために、一人一人ができることをやっていきます」
〔泊食分離〕
泊食分離を導入することで宿泊施設の稼働率を上げ、飲食店の利用を増やすことで、まち全体の活性化にもつなげる
〔新・湯治〕
調査結果をもとに温泉の効能を科学的に検証。結果を基に、他の温泉地との差別化や旅行商品の開発につなげる
〔産後ケア〕
赤ちゃんにベビーマッサージをする母親たち。温泉施設を活用した産後ケア事業の取り組みは全国的にも珍しい
《アドバイザーに聞く- 温泉街が生き残るために必要なもの-》
キーワード:リブランディング
(株)ビズユナイテッド 宮口直人(みやぐちなおと)さん
リブランディング事業にアドバイザーとして参加しています。事業成功のためには次の2点が特に重要です。
一つは「菊池温泉といえば〇〇〇」といった全体のブランドイメージの確立。もう一つは個々の旅館の具体的な個別ターゲットの設定です。これらがうまくマッチングしていけば事業が円滑に進んでいくと考えています。
菊池温泉はとにかく湯量が豊富。こんなにたっぷりと源泉をかけ流しているのはあまり見たことがありません。泉質も肌触りがなめらかで、魅力的な温泉地です。
さらに、菊池渓谷の自然や菊池一族の歴史、おいしい農産物など、温泉以外の魅力もたくさんあります。
温泉と地域資源を組み合わせ、他の温泉地との「違い」を出していくことが、これから生き残るために必要になってくるのではないでしょうか。
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