■糖尿病網膜症黄斑浮腫について
眼科 太田秀俊
日本では男性の14%、女性の8%が糖尿病と推定されます。糖尿病の方の約4人に一人の割合で糖尿病網膜症があるとされています。また、毎年糖尿病の方の3・6%に糖尿病網膜症が発症するとされています。軽症糖尿病網膜症の方は毎年2%ほどの方が重症糖尿病網膜症になるようですが、近年内科での糖尿病加療の進歩、眼科での網膜症治療の進歩により、重症化する方は次第に減少しているようです。30年前、糖尿病網膜症は最大の失明原因で約40%を占めていましたが、今は13%です。糖尿病網膜症の方の5・5%に糖尿病網膜症黄斑浮腫が認められます。
視力1・0や0・7などの通常の社会生活を行うために必要な視力は網膜の中心の黄斑部のみで獲得されます。糖尿病網膜症黄斑浮腫(網膜の水ぶくれ)は軽症糖尿病網膜症でも発症することがあり、次第に視力が低下し、時間の経過とともに網膜に不可逆的変化を生じ、加療によっても回復しない状態となります。
浮腫(水ぶくれ)の原因は血管の壁が弱くなり、血管内の液体成分が網膜組織の中へ漏れ出すからです。糖尿病になると微小血管の血流が悪くなります。網膜内で虚血による酸素不足が発生すると、網膜細胞はVEGFを分泌します。VEGFとは、酸素が無くて苦しいから新しい血管を作れとか、血管を作ることが間に合わないなら血管の壁に穴を開けて血液の液体成分だけでも回してほしいという命令です。このようにして血管の外に液体が漏れます。弱くなった毛細血管は毛細血管の小動脈瘤を作り、そこから多量の流出が発生することもあります。
現在行われている加療の中心は抗体(予防注射で体内に発生しウイルスなどに付着して活動性を無くす物質)治療です。抗VEGF剤を眼球内に注射し有効なことが多いですが、加療に抵抗することもあります。毛細血管の動脈瘤は血管壁が大きく損傷しており抗VEGF剤の効果が少ないことがあります。レーザー光線で毛細血管の動脈瘤を焼いてつぶします。凝固班は次第に広がりますので黄斑部の中心に近い部位には使用できません。さまざまな加療に対して抵抗する場合、眼球内のVEGFを多量に含んだ硝子体を手術で除去することもありますが、かえって悪化することもあります。
眼科での加療で必ず良くなるわけではないことがこの病気の厄介なところです。内科での糖尿病加療の強化、高血圧、脂質異常症を加療することにより、症状が改善することもありますので、内科での糖尿病加療を頑張っていただきたいと思います。
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