■関わり、変わり、変える人たち
昨年10月に開催した「いろいろねいろJAM」では、障害のあるなしや音楽経験のあるなしなどにかかわらず集まったメンバーたちが、ワークショップで一つの音楽を作り上げ、公開ライブで演奏を披露しました。参加したともさんとトナカイさん、指揮・監修を務めたベン・セラーズさんの3人に、イベントを通して気が付いたこと、感じたことなどについて語ってもらいました。あなたが多様性についての理解を深めるヒントが、お話の中に見つかるかもしれません。
いろいろねいろとは…
音楽を通じて多様性を楽しみながら感じることができるプログラム。市内の学校や施設、イベントなどの身近な場所で、多くの人にインクルーシブ音楽に触れてもらえるよう活動しています。
◇“障害があってもなくても、みんな緊張する時は緊張するし、楽しい時は楽しいし、同じなんだ”
参加者:ともさん
・参加したきっかけを教えてください。
元々はみんなで何かをすることが好きだったのですが、精神障害を発症してからは「みんなと何かをするのはもう無理かな」と思っていたんです。でも、いろいろねいろJAMでは、みんな気にしないし、フォローもしてもらえるということだったので安心できて、参加しました。
・印象的だった言葉や出来事はありますか。
周りの人たちが「好きな音を出していいよ」「それいいね!」と、全肯定してくれたのがうれしかったです。それから、ライブが終わった後、演奏を聴いていた人が「フルートすごく良かったよ。感動したよ」と声をかけてくれたんです。それが本当にうれしくて、自信につながりました。障害を発症してから「障害があるからできないんだ」と私自身が逃げてしまっていたけれど、障害があってもなくても、みんな緊張する時は緊張するし、楽しい時は楽しいし、同じなんだと参加者の皆さんと触れ合って感じました。それ以降、日々の生活の中でも自信が持てるようになったような気がします。
・参加して変わったことはありますか。
習っているピアノの先生に「発表会に出ないか」と言われ、出ることにしました。これまでは「絶対に出ない」と思っていましたが「発表会に出れば知り合いができるかもしれない。同じ先生に習っている生徒同士、交流してみたい」と思い参加を決めたので、いろいろねいろJAMに参加してから、変わったなと思います。
◇“子どもたちが自由に楽しむ姿を見て、あんな風になんでもやってみたらいいんだなと”
参加者:トナカイさん
・参加したきっかけを教えてください。
今までやり残してきたことに向き合ってみたくなったんです。60歳を過ぎたことだし、いろいろな人と関わって何かができる、新しい場所に飛び込もうと思って参加しました。
・印象に残っていることはありますか。
ライブの時、子どもたちは練習とは違うリズムや音を奏でたりもしながら、最後まで演奏しきっていてすごいと思いました。大人は「練習したものをやらなくては」という気持ちが強くて硬くなってしまったりするのですが、子どもたちが自由に楽しむ姿を見て、あんな風になんでもやってみたらいいんだなと。子どもたちの可能性、そして子どもたちと触れ合った人たちの可能性が広がっていくのを感じました。今まで同じ年代の人とばかり関わってきましたが、新しい世代と交流できて良かったと思います。意識的に自分を全然違う世界に投げ出さないと、どんどんと年を取って、大人しく家に引きこもる感じになっていきそうだったので、いろいろねいろは新しくスタートを切るきっかけになりました。
・参加して変わったことはありますか。
参加していた5人くらいで「このメンバーで、何かやりたいね」と言ってグループを作ったんです。それぞれ意見はバラバラですし、できる楽器も少ないですけれど、「どこかの片隅でちょっと演奏できたらいいよね」と話しています。そういうつながりが一つできましたね。
◇“「障害者」という固定観念を超え、障害のある人を一人の人間として見る”
指揮・監修:ベン・セラーズさん
・障害のあるなしにかかわらず、誰もが楽しめる音楽プログラムを始めたきっかけを教えてください。
元々は特別支援学校でタブレット端末を活用した音楽制作プログラムを行っていました。音楽にはあらゆる障壁を越えてつながる力があって、音楽制作プログラムを通して障害のある生徒とない生徒をつなげることに挑むべきだと思い、今の活動を始めました。
・いろいろねいろJAMのどんなところが好きですか。
いろいろねいろJAMで一緒に活動した皆さんが、別の場所でさらに多くの人たちとインクルーシブな活動を始めてくれていて、私たちがまいた種が、この先何年にもわたって実を結んでいくように思えるのが良いですね。
・障害のあるなしにかかわらず、誰もが自分らしく輝ける社会に近づくために必要なことは何だと思いますか。
私たち一人一人が、より平等な社会を目指して、自分にできることを見つけなくてはいけないと思います。それは「障害者」という固定観念を超え、障害のある人を“一人の人間”として見ることから始まります。彼らを「障害者」ではなく、「音楽家」や「活動家」「リーダー」として見るんです。そして「この人は何ができないのか」ではなく「この人は何ができるのか」「何をするのが楽しいと感じているのか」「それを可能にするためには何が必要なのか」と考え、それを軸に仕事や教育、まちの空間を構築していく。それができれば、理想の社会に近づくはずです。
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