◆Overseas
・ユネスコ・アジア文化センター
教育協力部長
大安 喜一(おおやす きいち)さん
地域に根ざしたESD推進事業を展開する、ユネスコ・アジア文化センターの大安喜一さん。大安さんに、アジアの中で見た公民館の特徴を聞きました。
◇世界でも珍しい「公民館」という施設
海外で行政が学校以外の教育施設を造る理由は、学校に行けなかった方に、基礎教育を補償するのが主な目的です。日本の公民館のように、あらゆる年齢を対象にした生涯学習の場は、アジアであまり例がありません。ヨーロッパでは「民衆大学」という形で教養を深める社会教育施設がありますが、対象に子どもが含まれないので、公民館のような世代の幅はありません。
ESDの根本である「持続可能性」の観点から考えると、公民館が全ての世代の交流の場として機能しているのは、とても大きなメリットです。知識を溜(た)め込むだけでなく実際に行動し、自分で考える力・理解する力を養う実践の場としても役立つのではないでしょうか。
現代社会はいろいろな面で海外とつながるグローバル化が進み、また、変化も非常に速いです。新しいことは、大人より子どもの方が知っていることも多いですよね。大人が教えるのでなく、子どもから学ぶ。子どもと大人の交流でお互いに多様な視点や考え方を学び、視野を広げる。それが持続可能な社会をつくることにつながるのではないでしょうか。
◇「平塚モデル」を海外へ
ESDの視点の一つに生涯学習があります。空間軸と時間軸で生涯学習を考えてみましょう。空間軸は公民館・学校・家庭・会社といった広がり、時間軸は世代を超えた広がりです。この空間軸と時間軸を、ESDをキーワードにして、公民館でつなげていくこと。全ての世代が協力していくことに意味があります。
平塚市の特徴は、既存の事業にESDの観点を取り入れ、実態に即した進め方をしている点です。押し付けでも借り物でもなく、自分たちでESDを咀嚼(そしゃく)しながら活動しているのは素晴らしいことだと思います。ユネスコ・アジア文化センターでは、これまでの平塚市の取り組みを、国際的なオンライン会議などで海外に紹介してきました。「平塚モデル」を紹介し、海外からも知見を得る機会を、今後も作っていきたいですね。
◆Domestic
・東海大学スチューデント アチーブメントセンター
准教授
池谷 美衣子(いけがや みえこ)さん
社会教育・生涯学習を研究している、東海大学准教授の池谷美衣子さん(左写真)。池谷さんに、市公民館でESDを進める意義を聞きました。
◇平塚市の公民館の「底力」
平塚市の公民館で特徴的なのは、設置体制が充実している点です。まず、各小学校区にほぼ一つ公民館があるという設置数の多さ。次に、各公民館に正規職員が必ず配置されているという人的な面での充実。そして、各地区の公民館を取りまとめる中央公民館が主導し、積極的に公民館主事のスキルアップを図っていること。このようなしっかりした基盤があるからこそ、各公民館でESDに取り組むことができているといえます。全国的に見ても、県内で見ても、平塚市ほど充実した体制を整えている公民館は少数派です。平塚市の公民館には非常に大きな底力を感じますし、市民にとって公民館は大きな資源といえますね。
◇公民館はESD実践の場
文部科学省の学習指導要領の中にESDの推進が組み込まれているため、最近の学生たちはなんらかの形でESDの考えに触れて育ってきています。しかし学校の中で学ぶESDは理論的なものとして、自分たちの生活と切り分けて考えられがちです。一方で、公民館のようなローカルな場所は、身近な生活そのもの。リアリティのある、ESDの実践の場です。ESDを共通の軸として多世代が共に学ぶことができるのは、公民館の最大の特徴であり強みであるといえるでしょう。
◇ESDで社会への信頼感を育てる
本学の学生にシティズンシップ(社会参加に必要な能力を育む教育)を教える中で痛感しているのが、学生たちが持つ社会への信頼感の低さです。「自分が何かをしても聞いてもらえない、世の中は変わらない」、という思いを持った学生が少なくない。そうした状況において、公民館でESDの考え方に触れ、地域の中でいろいろな取り組みをしている大人に出会うのは、若い世代が社会を信じていくことにつながるのではないかと思います。世代を超えたリアルな学びの場としての公民館の役割に、今後も期待していきたいですね。
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