◆もしもの避難生活に備えて
地震により地面が揺れると、下水道施設である下水管やポンプ場が被災する恐れがあります。分かりやすいのは、下水道本管に亀裂が入ったり、管やマンホールのつなぎ目がずれたりする他、液状化によるマンホールの浮き上がりなどの被害です。こうした被害で下水道の使用が制限された場合、トイレの使用にも影響が出てしまいます。平塚市災害対策課主査の香取祐亮さんは、「平塚でも強い揺れの影響で、トイレの先にある下流部分が被災する恐れがあります。市では力を入れて、トイレ対策を進めています」と話します。
◇マンホールトイレを整備
災害時のトイレ対策として、全国的に注目されているマンホールトイレ(本紙1面(4))。マンホールの上に簡易的な洋式便座や、テントなどの仕切りを設けるだけですぐに使えることから、避難所へ設置する自治体が増えています。平塚市では令和3年度から、貯留型のマンホールトイレの整備を進めています。「断水時でも安心して使えるのが貯留型の強みです」と香取さんは説明します。
同トイレは、子どもと保護者が一緒に入ったり、介助が必要な方が使ったりできるよう、配慮もされています。「段差がないので子どもや高齢者も使いやすいと思います。また配慮が必要な方も安心して使えるよう、各避難所に設置する5基のうち1基のテントを、広い造りにしています」。
◇安心して使える配慮
多くの方が過ごす避難所。全員が常設のトイレを使って、自力で排泄できるとは限りません。高齢者や排泄介助が必要な方のトイレ対策も必須です。市では、水を使わず、リモコン操作による90秒の熱圧着で、排泄物を個包装にして密封できる、自動ラップ式トイレ(本紙1面(3))を全避難所に配備しています。ラップした汚物は臭気も細菌も遮断されるので衛生的。排泄物や使用済みのおむつなどを密封・個包装できるので、汚物に触ることなく処理できます。「安心して使ってもらうだけでなく、福祉避難所などで介助する方の支援にもつながったらと思います」と香取さんは期待を込めます。
◇想定避難者の3日分
避難所などの公衆衛生の悪化を防ぐために重要だといわれているのが、震災直後のトイレ対応です。マンホールトイレや自動ラップ式トイレの他に、市には10種類のトイレの備えがあります。
その中で、まず初めに設置を想定しているのが携帯トイレです。「携帯トイレは、袋を広げて便器にかぶせるだけで簡単に使えます。市では排泄する袋と排泄物を吸収する凝固シートが一体化した型を用意しています」と香取さん。「使用後に袋の口をしばれる作りになっています」と続けます。在宅避難を含む、想定避難者9750人が使う3日分の携帯トイレを、市内避難所の防災倉庫に分散備蓄しています。3日分の備蓄は、内閣府が災害トイレガイドラインで定める、トイレの平均的な使用回数「1人当たり1日5回」で算出しています。
市の備蓄は想定避難者の3日分。トイレを使えない期間が長くなる場合もあり得ます。3日目以降や25万人を超える全市民分まではカバーできません。香取さんは、個人の備えの重要性を強調します。「発災時に備えて最低でも3日分、なるべく1週間分のトイレ対策を考えておきましょう」。
◆2カ月続いた断水生活
発災直後、トイレ対応が急がれた石川県志賀町。急きょ仮設トイレの担当になった同町環境安全課の的場尚恵さんは、必要台数の確認・手配などに追われました。「すぐに事業者への手配はできたものの、設置には立ち会いが必要で、各避難所を回るのは時間もかかり大変でした」と振り返ります。避難所からは「手すりが欲しい」という要望も届いたと言います。
また断水が長期化する中、排泄物を固める凝固剤などが手に入らず、捨て方が分からないという声が多く寄せられたそう。「たくさんの排泄物がそのままの状態で、燃えるごみとして出されていて、処理する事業者も困っていました」。
4月26日現在、断水が解消して約2カ月たちます。「自宅のトイレ工事が追いつかず、避難所の仮設トイレを利用する方もいますが、多くの避難所では撤去が進んでいます」と現状を話す的場さん。少しずつ落ち着いてきた今、災害派遣などの人的支援が心強かったと振り返ります。「避難所の皆さんが快適にトイレを使えたのは支援のおかげです。仮設トイレのタンクへの給水や掃除、避難者の困りごとの伝達など、目が届かない部分の支援に本当に助けられました」と感謝を語りました。
◆断水時も使えて衛生的
市が整備を進める貯留型のマンホールトイレは下水道本管が被災しても、定期的に排泄(せつ)物を貯留水で流し、3日分の汚水が貯留できる造りになっています。また耐震性にも優れています。令和9年度までに、避難所となる44カ所の施設への設置を目指し整備を進めています。現在9カ所への整備が完了。本年度は新たに10カ所に設置予定です。
※図は本紙をご覧ください。
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