ザ・キャビンカンパニーの作品は、独特の色彩と力強さを持っています。展覧会会場に一歩足を踏み入れれば心震えること間違いなし。絵本だけにとどまらず、舞台美術制作やキャラクターデザインなど、多岐にわたって活動している彼らの魅力を感じてみませんか。
平成26年に、絵本『だいおういかのいかたろう』でデビューした2人組のユニット、ザ・キャビンカンパニー。数々の高い評価を得ている、今注目の若手アーティストです。7月6日(土)から平塚市美術館で始まる、ザ・キャビンカンパニー大絵本美術展(童堂(どうどう)賛歌)への思いを、お二人に聞きました。
◆絵本だけじゃない
(阿部さん)僕らのことを絵本で知ってくださっている人が多いと思うんですが、絵本をイメージして展覧会会場に入ってみたら「なんだこれは⁉」と驚くと思います。僕らは絵本だけでなく、立体作品や絵画などの美術作品も数多く作っているので、展覧会名も絵本展でもなく、美術展でもなく、大絵本美術展としました。
◆根幹にあるのは「童」と「堂」
(吉岡さん)展覧会のタイトル「童堂賛歌」は本展のために作った言葉です。「童」は、私たちの作品の根幹にある「童子のエネルギー」。人は海や山などの自然物を見た時に、美しさや偉大さに圧倒されたり、はかなさやもろさに恐れたり、日常を忘れて心奪われる瞬間があります。私たちの制作の原点は、その心奪われる瞬間を作り出すことです。作品としてどう表現したらいいのか考えていた時、子どもの姿が重なりました。私の実体験で、わが子を生み落とした時は後光が差しているかのように神々しく見え、泣き叫ぶ姿は火山の噴火のように見えたんです。常にその瞬間を生き、エネルギーに満ち溢れている子どもを描くことこそ、私たちの表現方法だと思いました。
(阿部さん)「堂」は、多くの人を受け入れる「場」。性や年齢、思想、宗教も超えて万物を受け入れる広い言葉だと思います。僕らも生きていく中で、なるべく概念を狭めず、決めつけず、偏らず、物事を正直に一度受け止めることにしています。全てを信じ、全てを疑う。その混こん沌とんとした思いを作品として生み落としています。
◆私たちの世界観
(吉岡さん)メインビジュアルは展覧会の顔になるので、すごく悩みました。今まで描いてきたキャラクターだけを載せるのは何か違うなと。
(阿部さん)僕らの内にある、制作の源泉を二つの顔が表していて、そこからこれまで形となって生み落とされた作品が出てくる……そんなイメージで描きました。
(吉岡さん)吐き出しているのか、吸っているのか、歌っているのかは、展覧会に来ていただいた皆さんが思い思いに感じ取っていただけたらと思います。私たちの脳内を体感してください。
◆過疎地域を知ってほしい
(吉岡さん)展覧会は全7章で構成しています。6章では、私たちが活動の拠点としている、大分県由布市の廃校を紹介しています。私たちは過疎地域で制作活動をしています。山間部や離島などを中心に日本全国に広がっている過疎地域。私たちの制作場所を元とした空間表現を体感することで、過疎化する地方集落の現在に目を向けていただきたいです。
◆実物感にこだわる
(阿部さん)僕らは「実物感」を大事にしています。絵本の編集者に校正指示を出すときに、「データ処理感」を極力出さないでほしいということをよく伝えます。
吉岡さん 「実物感」は、絵本を作るときも立体作品を作るときも大事にしている部分ですね。私たちはなるべく作っている人の手が見えるものにしたいと思っています。きれいに作りすぎず、汚れやかすれ、にじみなど、人の息吹を見せる方が、心が震えると思うんです。
◆圧倒的物量で魅せる
(阿部さん)今回の展覧会には、4トントラック6台分の作品を持っていきます。皆さんが一般的に想像する絵本原画展というよりは、現代アート展に近いかもしれません。
(吉岡さん)一つ一つの作品の持つエネルギーが強すぎて、もしかしたら泣いてしまう子がいるかもしれない。会場に入れない子もいるかもしれない。阿部さん でも、決してお化け屋敷ではないんです。怖がらせようとしているのではなく、怖いなって思ってしまうぐらい、エネルギーの強い作品を作りたいんです。
展覧会の構想を練り始めた3年前から今日まで平塚市美術館のことを考えなかった日はありません。全身全霊をかけて作った作品を通じて、僕らの生きざまを、ぜひ感じてほしいです。
●ザ・キャビンカンパニー
阿部健太朗さんと吉岡紗希さんによる2人組の絵本作家、美術家。ともに大分県生まれ。大学生の時にユニットを結成。卒業後、大分県由布市の廃校舎をアトリエにして、絵本や絵画・立体造形・アニメーションなど、さまざまな作品を生み出し、国内外で注目されている。
●『ゆうやけにとけていく』令和5(2023)年小学館
令和6年
・第71回産経児童出版文化賞産経新聞社賞受賞
・第29回日本絵本賞大賞受賞
受賞コメント:悲しんでいる人や苦しんでいる人、悩んでいる人たちの思いを、そっと包み込む絵本を作りたいと思いました。私たちがこれまで作ってきた絵本は、何かが起こるワクワク感のある、明るく元気なものでした。この絵本では、ただ人に寄り添う、ハプニングの起こらない、たんたんと流れていく日常を美しいなと感じてもらいたいと思ったんです。これまでの絵本の作り方とは違ったので、どう評価されるか気になっていました。こういう形で認めていただけたのはうれしいですね。
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