◆先人の技巧の作を100年先へ
「当時の仏師さんの高い技法で造られた仏像です。寄せ木は驚くほど、ぴったりはまっています。なかなかできる技ではありません」と修復を終えた木造薬師如来立像を語る、仏師の瀧本さん。「ただ修復前は、経年劣化による傷みがひどく、足もなくなっていたので自立できていませんでした」と初見の状態(左写真)を振り返る。地震などの大きな揺れで倒壊する恐れがあったそうだ。
今回の修復作業はまず、仏像の全解体から始まった。
仏像本体より柔らかい木材を使ったくさびなどで、数日掛けて各パーツに分けていく。「虫食いやひび割れなど、全解体で初めて分かる劣化もありました」と瀧本さんは話す。「過去修復された部分や、誰がいつ造ったのかなど、新たな事実が発覚することもあるんですよ」。ちなみに全解体された仏像は、小麦粉や木の粉などを混ぜた漆ののりで接着し、組み立てられる。
◇修復が現代の記録になる
段階ごとに丁寧に進めていく修復。全ての作業でとてつもない集中力と神経を使う。例えば、0.01ミリメートル以下の単位で表面を削るだけで、仏像の表情はガラリと変わる。1日で進むのは10円玉1枚分くらいの面積だとか。「お預かりした大切な仏像です。木地を傷めないように、時間を掛けて作業しています」と瀧本さん。「信頼して任せてもらっているので、半年・1年と預かる期間、全ての作業とセキュリティー面に神経をとがらせています」と背筋を伸ばす。
また文化財の修復における考えを語る。「時代性の部分で現代ではできない技法もあります。だからこそ、今の時代に修理したことを『記録』として残すようにしています」。もちろん、技術面で劣るような方法で残すという意味ではないし、名前を文字で残すわけでもない。正福寺に帰った同仏像には、瀧本さんの技術で修復された「記録」が残されている。見た目はもちろん、ぷっくりとした足が造られるなどして、自立できるようになった。「今回の修復で、さらに100年・200年先まで、受け継がれていくことを願っています」。
○仏師・仏像修復家・木彫刻家
瀧本 光國(たきもと みつくに)さん
福岡県出身。イタリアのミラノに渡り、彫刻家の豊福知徳に師事。現在、鎌倉市にアトリエを構える。鎌倉国宝館、公立博物館の所蔵品や古社寺の像などの修復を手掛けている。仏師として制作した木像を奉納した実績もある。多くの展示会を開くなど、彫刻家としても活躍する。
◆年2回の御開帳
日時:9月28日(土)・令和7年1月28日(火)、午前10時~午後3時
(1月28日の時間は後日、市ウェブでお知らせします)
場所:八剱神社(下吉沢712)
駐車場はありません。公共交通機関でお越しください。
◆地域に残る貴重な仏像・絵画を公開 市指定重要文化財展
修復が完了した正福寺の木造薬師如来立像と、市博物館で所蔵したり、所有者から博物館が寄託を受けたりしている絵画の中から約4点、公開します。実物を見られる貴重な機会です。ぜひお越しください。
日程:月曜日と10月15日(火)を除く、4日(金)〜11月4日(休)
場所:市博物館(浅間町12-41)
問い合わせ:社会教育課
【電話】35-8124
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