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〔特集 これまでも、これからも 未来に残す、つながりのかたち〕横須賀の谷戸を見つめる(1)

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神奈川県 横須賀市

■芽吹く、つながりの新たなかたち
急速な少子高齢化の課題を背景に、横須賀市は「個性ある地域コミュニティのある都市」を掲げ、地形的な特徴のある谷戸を「個性」と捉えている。
谷戸には、特有の歴史や地域性が紡いだ、人と人との強いつながりや結びつき、独自のコミュニティが確かにあった。だからこそ、「これまで」の魅力はそのままに、この地域に住まう人々とともに、新たなつながりのかたちを創出できる可能性を大いに秘めている。
谷戸の「これから」は、きっと、地域コミュニティの再生・活性化の1つのモデルになり得ると言える。
今、谷戸に生きる人々の暮らし、ともに歩む人々の姿が、私たちに多くの気づきや学びを与えてくれるだろう。

■近代 横須賀のはじまり
三方を海に囲まれた緑豊かな大地と温暖な気候の下、横須賀に住む人々は、永く半農半漁の生活を営んでいた。それが一変した契機は、ペリー来航。
開国への舵(かじ)を切った徳川幕府は、海軍力強化の必要性を痛感し、海軍施設の建設を計画した。勘定奉行などを歴任した小栗上野介忠順(1827-1868)らに命じ、フランス人技師のフランソワ・レオンス・ヴェルニー(1837-1908)を招き入れ、横須賀製鉄所の建設に着手。江戸時代、家数200戸ほどであった横須賀村は、日本の近代化を担う地となり、技師や職工など多くの人々が集まるようになった。
江戸幕府崩壊後、横須賀製鉄所は明治政府に継承され、横須賀造船所へと名を変えた。明治36(1903)年には、横須賀海軍工廠(こうしょう)となり、以後、終戦まで多くの艦船を建造。この間、多くの人々が横須賀へ移り住み、少ない平坦地に住宅が溢れ、谷が入り組む地域(谷戸)やその斜面部にまで人々の暮らしが広がった。谷戸は日本各地にあるが、谷の奥まで住宅が広がることは珍しく、横須賀特有の景観といえる。その後も、横須賀は軍港都市として発展し、明治40(1907)年に市制施行。県内では、横浜に次ぐ早さであった。
横須賀の発展の礎は、明治以降、全国から谷戸に移り住んだ人々の存在、紡いできた歴史に起因するのかもしれない。

・参考文献
『新横須賀市史 別編 軍事』
『新横須賀市史 別編 民俗』

■一つの谷戸にひとつの世界
谷戸は、全国各地からさまざまな人を迎え入れた。
軍人、その家族、造船所などの工場就労者、この地に縁のない「ソト」の人…。十人十色、異なる境遇にあった人々は、互いに声をかけ合い、助け合いながら、つながりを深めていったのであろう。そこには「多様性を認め合い、互いに慈しみあう、誰も一人にさせない」まちの姿、原点が垣間見える。
また、険しい峠の先にある隣の谷戸との往来は困難だった。閉鎖的とも思えるこの環境が、人々のつながりを強めることに寄与したのであろう。昭和55(1980)年の広報よこすか4月号(第364号)からは、当時の暮らしの「声」が聞こえてくる。

「お隣りさんとは、お茶を飲み、煮物をあげたりもらったり…。遠くの親類より近くの他人、という間柄。声をかけ合い、助け合う谷戸。老夫婦、若夫婦、子供たちの三代一緒の家庭が多く、大きな家族が一つになったような町です。」

その背景を受け継ぎ、現在も谷戸ごとに自治会・町内会、祭礼が続く。一つの谷戸にひとつの世界。それが谷戸に住む人々のアイデンティティーを築いている。時の流れ、まちの発展とともに、多様性と独自性が共存してきたのである。

■進む、高齢化
しかし、多くの谷戸で育まれてきた「近所づきあい」のかたちが、時代の流れとともに変わりつつある。日本全国の市町村が抱える課題の1つ、人口減少、少子高齢化に一因がある。横須賀市では、それが県内や全国の他市町村よりも早く進む。
さらに、車の通行が困難な狭路や長い階段が多い場所では、その波がより早く押し寄せている。コミュニティの担い手不足や、地域活動のきっかけとなる子どもの減少が、人々のつながりを希薄にさせていく。令和4年度に実施した「横須賀市民アンケート」では、約8割もの人が「近所の人と顔見知りの関係にとどまる」と回答。そして「地域での活動をしていない」と回答する人は、6割を超えている。

◆数字で見る谷戸地域~ある谷戸の人口と年齢構成の移り変わり~
▽人口増減
・1980年→2023年 約60%減少

▽年齢構成

▽〔参考〕横須賀市全体(1980年→2023年)
・人口増減率 約10%減

・年齢構成推移
65歳以上 8%→32%
14歳以下 24%→10%

※昭和55(1980)年・令和5(2023)年10月1日現在の住民基本台帳登載人口による

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