■大倉幕府周辺遺跡群から出土した題箋軸
◇鎌倉時代の年号を記す資料
横浜国立大学教育学部附属鎌倉小・中学校構内で、令和2年度から実施した発掘調査では、鎌倉時代前期の大倉御所の西端と推定される柵や門の痕跡、西大路とみられる道路跡が発見されました。これらの遺構と同一層位から、年号を記す「題箋軸(だいせんじく)」が出土していたことが、新たに分かりました。
「題箋軸」とは、巻物の軸頭を札状に作り出したインデックス(見出し)のことです。ここに年号や文書名などを記し、巻物を開けずに内容が分かるようにするもので、今回出土した題箋軸には、片面に「建保(けんぽう)三年」、もう片面には「官物(かんもつ)」「御返抄(ごへんしょう)」とみられる文字が記されていました。下端部中央に欠損があり、ここに軸部があったものと推定されます。
「建保三年」は西暦1215年で、大倉御所があった時期と重なります。また、鎌倉時代の年号が記された市内の出土資料の中で最も古いものでもあり、貴重な事例です。
◇当時の物流を知るカギに
さて、「官物」とは、租庸調(そようちょう)の税や年貢などの貢納物(こうのうぶつ)を指すものと考えられ、「御返抄」とはその貢納物に対する受領書と考えられます。この題箋軸は、一つの可能性として、地方から鎌倉の屋敷に貢納物が納められ、その受領書の写しを巻物として保管した際のものと考えられます。公の機関、あるいは有力な御家人などの財産・所領を管理する機関が廃棄したものと考えられ、地方と鎌倉の物資のやり取りや、その手続きを表す資料なのかもしれません。
8月に実施した遺跡調査・研究発表会では、この資料がどのように用いられたのかなどが、専門家により議論されました。今後も新たな知見の蓄積が期待されます。
[文化財課]
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