■梅毒流行注意報発令
福井勝山総合病院
皮膚科診療部長 髙橋 秀典
感染症のパンデミックは有史以来世界中で繰り返されてきましたが、新型コロナウイルス感染症のパンデミックに隠れて静かに広まっているのが梅毒です。元々は西インド諸島の風土病だったものをコロンブス達がヨーロッパへ持ち帰り、数十年の時を経て日本まで地球をほぼ一周して伝わったと考えられています。
感染して1か月ほどすると接触した部位に『痛みのないしこり』ができますが、これは次第に消失します。その後3か月ほどすると全身に『バラ疹』とよばれる赤い斑点や『梅毒性丘疹』とよばれるガサガサした斑点が手足に生じます。また、外陰部などには『扁平コンジローマ』とよばれるジュクジュクしたしこりができることもあります。これらは『第2期梅毒』とよばれる症状で年余にわたって繰り返すこともあり、この段階で梅毒と診断されることが多いようです。症状が軽快しても感染力はあります。
梅毒は、HIV・B型肝炎など他の感染症と併せて感染することがあるため注意が必要です。不特定多数の相手との接触がないと思っていても、「元彼の元カノの元彼の元カノの元彼の元彼」から芋づる式にもらう危険性もあります。また、妊婦が感染するとお腹の子供に重大な障害を生じることがあります。大切なことは、おかしいと思ったら検査をすることです。
梅毒の治療には、通常はペニシリンを使用します。現時点でペニシリン耐性の梅毒菌は確認されていないため最も有効な治療選択肢で、正しく使用することで完治が期待できます。
昨年は福井でも梅毒の登録者数が過去最高となり、全国的にも20~30代での増加が目立っています。今年は北陸新幹線の延伸で人の往来が増えることからさらに感染者数が増加することが危惧されます。マッチングアプリとの関連も示唆されていますが、実のところ携帯電話でのインターネット接続が拡大した2000年代初頭から感染者数は増加傾向にあります。感染しないためには、刹那的な行動をひかえて不用意な接触は避けるなど、自律的な生活を心がける必要があります。
先ほども書きましたが、梅毒は治療で『完治』できる病気です。感染の不安があれば迷うことなく医療機関を受診して検査を受けてください。
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