■02 ASUWA RIVER and DISASTER
足羽川と水害とつながり
まちと川の関係を考えるときに、決して外せないのが水害の問題です。人間にさまざまな恩恵を与えてくれる河川は、ときに大きな脅威になります。
足羽川もまた、古くから氾濫を繰り返し、福井のまちを危険にさらしてきました。
▽福井豪雨から20年
今年は「平成16年7月福井豪雨」から20年です。6月30日、福井新聞社の呼びかけにより、福井豪雨をテーマにした防災ワークショップが、木田公民館で行われました。
平成16年7月18日、午前から平野部の市街地で内水氾濫による浸水が広がりました。その後、上流からの濁流で足羽川の水位が上昇、堤防から水があふれ出します。そして13時34分、左岸春日1丁目付近が決壊、東西約3.5kmに及ぶ広い範囲が浸水しました。
今回のワークショップに参加したのは、そのときに決壊した堤防の周辺に住む市民たちです。
大きく拡大した地図を広げ、冠水した区域や土地の標高などを確認し、堤防決壊直後から、数時間後、数日後に状況がどのように変化していったかなど、詳しく体験を語り合いました。
自分たちの住む場所はどのような地形で、近くにどんな川や水路が流れていて、万が一堤防が決壊したとき、水はどのように動くのか。皆、当時は十分に把握していなかったそうです。
太ももの辺りまで浸水した道を、服を着て靴を履いたままで避難しなければならない困難な状況は、体験するまで分からなかったと言います。
ワークショップには、福井県立大学の学生も参加。自身たちが生まれる少し前に福井で起こった大災害について学び、体験談に真剣に耳を傾けていました。
▽今後も「共助」できるか
今後の防災の提言として、日頃からの備えの大切さ、正確な情報伝達や発信の必要性などが説かれる中、とくに大きな話題となったのが、「地域のつながり」というテーマでした。
災害が起こったときには近隣同士が助け合う「共助」が大事だ、とよくいわれます。ワークショップの参加者たちによれば、福井豪雨当時、不幸中の幸いだったのが、この「共助」が十分に機能したこと。それにより、たくさんの命が助かり、その後の復興を支えられたと言います。
しかし、皆さんが口をそろえたのは、20年前に残っていたその地域のつながりが、果たして現在の福井に期待できるか、という危機感です。
昔に比べて、近所の付き合いが減った。同じ町内にある家に誰が何人で住んでいるのか知らない、分からないということが増えた、と言います。
普段から付き合いのない人同士が、いざというときにだけ助け合うということは難しいでしょう。
▽人のつながり絶やさぬために
参加者の1人芳川定史さんは、このときの経験を教訓に、人のつながりを絶やさないため、祭りの際にぼた餅を手作りして関係者に配る、という昔ながらの慣習を意識的に続けてきたそうです。
田中芳枝さんは、福井豪雨後、被災者たちの体験や想いを集めた冊子を編集し、周囲の人たちに配布しました。その過程で知り合った人たちや生まれた新しい絆もあると言います。
そして、今回のようなワークショップの場もまた、水害という共通の体験をベースとして自分たちのまちのことについて知り、話し合うことで、つながりをつないでいく、貴重な場だといえるのではないでしょうか。
▽「絶対に安心」はない
福井豪雨を受けて、足羽川や日野川では、水害の再発を防ぐため河床掘削や護岸などの工事が行われ、現在は、川の水が当時よりもスムーズに流れる状態になりました。
しかし、気候変動により自然災害が激化している近年、想定を超える災害がいつ発生するか分かりません。「絶対に安心」はありえません。
▽防災の経験や知恵の共有を
かつて川の近くにある地域では、大雨が降ると、浸水に備えて軒先につるしてある舟を皆で下ろして準備したり、洪水の危険がせまると「水太鼓」と呼ばれる太鼓をたたいて地域の人たちに避難をうながしたりしていたそうです。
そうした慣習は、昭和に入ってからの福井でも、九頭竜川のほとりの舟橋などでは残っていたといいますが、今は昔の話です。
近代的な改修工事による治水が発達することで、かつてに比べると水害の頻度は確実に減りました。
しかし、安全性が増した一方で、より高くなった堤防は、まちに暮らす人たちと川との隔たりを大きくしてしまったかもしれません。
そして私たちは、川への親しみを失い、それと同時に、水害に備え「共助」する経験や知恵もまた、失ってきたのかもしれません。
防災という観点からも、川と私たちの関係を、あらためて考え直す必要があるのではないでしょうか。
福井県立大学の学生たちは、時間の経過と共に薄れがちな災害の記憶や知見を後世に伝えようと、福井新聞社と協力し、福井豪雨当時の証言や報道写真、デジタル地図などをまとめたウェブサイトを作成しました。
ウェブサイト「学生が聞いた『福井豪雨』の証言」より
●小さな単位で防災することが重要
(一社)防災ジャパン 横田義弘さん
木田地区在住で、被災者の1人としてワークショップに参加した横田義弘さん。平成30年の福井豪雪の際に、Facebookで災害情報を共有するグループ「福井災害情報」(現在は「福井情報」)を立ち上げたことを契機に、情報発信や災害ボランティアなど、防災に関する活動を続けてきました。
横田さんは、防災訓練として、河川敷や公園などに集まって「防災キャンプ」をすることを提唱しています。「被災時に避難所で近所の人たちと何日も共同生活をするのは、キャンプに似ている。そのときに家にあった食料などを持ち寄って、わいわい楽しくバーベキューをする」。そうして普段からお互い顔見知りになり、災害時の皆の行動についても話し合っておくとよいと言います。「一言で『木田地区』と言っても広い。周辺の地形や、どこに高齢者が一人で住んでいるかなど、実情はさまざま」。国や自治体などの大きな単位を過信せず、町内など、なるべく小さな単位で防災対策をすることの重要性を教えてくれました。
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