■第346回 文化財編(23) 戦火を免れた煩悩を鎮める鐘の音
誠照寺の鐘楼(しょうろう)に納められる鐘は、第二次世界大戦下の金属類回収令を免れた鯖江市内唯一の梵鐘(ぼんしょう)です。鐘身(しょうしん)中央の「池の間(銘文などを鋳込(いこ)むことに由来)」には宝暦6年(1756)の制作年と大坂の鋳物師(いもじ)・大谷相模掾(おおたにさがみのじょう)藤原正次の名が陽鋳(ようちゅう)されています。
梵鐘が鋳造された宝暦6年は「丙子(ひのえね)」の年で、陰陽五行(いんようごぎょう)説では十干(じっかん)の丙は陽の火、十二支(じゅうにし)の子は陽の水を表し、「水剋火(すいこくか)(水は火に剋(か)つ)」の相剋関係にあたる年でした。奇しくも、文久2年(1862)11月に発生した火災では、誠照寺の阿弥陀堂(あみだどう)・御影堂(ごえいどう)などが焼失した一方で、「左甚五郎(ひだりじんごろう)が刻した龍が水を吹いて猛火を退けた」と伝承される四足門(1779建立)とともに鐘楼・洪鐘(こうしょう)は火難を免れました。
さて、梵鐘に付けられた乳(ちち)は俗に108種(一説に眼(げん)・耳(に)・鼻(び)・舌(ぜつ)・身(しん)・意(い)の六感覚器にそれぞれ好(こう)・悪(あく)・平(へい)があり、これら18種にそれぞれ浄(じょう)・染(せん)、さらに36種に前世・今世・来世を当てた数とも)あるという煩悩の数と同数です。いつの時代、どんな人にも沸き起こってくる煩悩の炎は、心に染み入る梵鐘の音(ね)が鎮めてくれていたのかもしれません。
(文化課 藤田彩)
◇平成10・11年度指定の市指定文化財
洪鐘(梵鐘)(本町)
二十四孝図屏風(和田町)
西山公園遺跡出土有鉤銅釧(まなべの館)
木造阿弥陀如来立像(杉本町)
木造阿弥陀如来立像(西大井町)
絹本著色教如上人像(和田町)
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