■第358回 文化財編(35) 江戸後期の建築を伝える神社本殿
古来、四季が豊かな日本では、自然の恵みと厳しさは神の二面性(和魂(にぎみたま)・荒魂(あらみたま))がもたらすと信じられてきました。先祖は人智を超えた神秘に遭遇したとき、共同体に祭殿を築いて神を祭り、精神的な拠り所としたのです。
さて、木を主材料とする日本建築は、風雨や虫害によって数百年と姿が保たれることは稀で、市内では江戸時代後期の神社建築である劔神社・熊野神社・河和田神社の本殿(御神体を安置する社殿で、参拝者が拝礼する社殿を拝殿(はいでん)という)が市指定文化財となっています。
神社建築の成立時期は明らかではありませんが、仏教伝来以後は寺院建築の手法を取り入れて発展してきました。一方、本を開いて伏せたような切妻(きりづま)の屋根の本殿を堅持する神社は多く、平(ひらいり)入(棟と平行の面が入口)様式で正面の屋根を長く吹き下して向拝(こうはい)(参詣者の礼拝場所)とする「流造(ながれづくり)」は最も多い本殿形式です。
明治以後、合祀にともなう移築や老朽化による建て替えが進み、近世の姿を留める神社は少なくなりましたが、自然への畏敬と感謝の心は変わることなく未来へと受け継がれていきます。
(文化課 藤田彩)
◇平成22年度指定の市指定文化財(3)
劔神社本殿(下新庄町)
劔神社拝殿(下新庄町)
熊野神社本殿(和田町)
河和田神社本殿(寺中町)
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