■第359回 文化財編(36) 受け継がれる命の「水」と豊かな暮らし
豪雪地帯・福井の山地に降った雪や雨は木々を潤し、やがて土中の養分を湛(たた)えて大地に湧き出します。鯖江市域では湧水(ゆうすい)に恵まれた村がある一方、川の氾濫(はんらん)や旱魃(かんばつ)に苦しむ村もあり、長きにわたって水と人智とのせめぎあいが続いていました。
享和元年(1801)、渇水(かっすい)に窮した福井藩領の磯部村は「稲苗枯渇シ秋ノ収穫ヲ得ル能(あた)ハス」として灌漑(かんがい)用の溜池普請を嘆願します。藩領の村々からのべ1万2784名もの人足を集めて翌年春に溜池は完成しましたが、文政6年(1823)の大洪水をはじめ、明治末年に至るまで毎年のように水害に悩まされました。
他方、孤立丘を抱(いだ)いて立待・神明地区に延びる鯖江台地や日野川の扇状地北限の鯖江地区の地下には豊かな水が蓄えられており、往古より人々の生活用水として「お清水(しょうず)」が維持されてきました。今では当たり前に蛇口からきれいな水が出てきますが、先人の水獲得の苦労を戒めにして大切に使いたいですね。
ちなみに、元日の朝に初めて汲む「若水」は一年の邪気を除くとされる縁起のいい水。ゆく年を省みて、くる年の幸多きことを祈り、若水を口にしましょう。
(文化課 藤田彩)
◇平成22年度指定の市指定文化財(4)
溜池(磯部町)・榎お清水(米岡町)・許佐羅江清水(定次町)
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