■超リアル!虫好き殿さまの写生帖
生きている虫はご法度の博物館ですが、今回の主役はそんな虫たち。現在開催中のきゅーはくサマーツアー「博物館で昆虫採集」では、虫をモチーフとした20点ほどの作品を展示しています。なかでも必見なのは、江戸時代、伊勢国(現在の三重県)長島藩の藩主であった増山雪斎(ましやませっさい)(1754~1819)が描いた「虫豸帖(ちゅうちじょう)」です。「虫豸」とは聞き慣れない言葉ですが、かつては小型生物のうち足のあるものを「虫」、足のないものを「豸」と呼んでいたようで、「虫豸帖」には今より広い範囲の虫たちが登場します。春・夏・秋・冬の全四帖から成りますが、冬帖にはカエルや蛇、金魚まで描かれています。
その絵はというと、プロ顔負けのきわめて高いレベルを誇っています。細やかな筆づかいで、質感までこだわって丁寧に描かれた虫たちは、今にも動き出しそうなほど写実的です。表裏両面を描く虫も多く、写生した日付や特徴、採集場所なども書き添えるなど、実証性と芸術性を兼ね備えた博物図譜の最高峰です。虫を「わが友」と慕った雪斎は、採集した虫の死骸を小箱に集め、いつかは供養したいと望んでいました。それを叶えられずに亡くなった彼に代わって友人たちが建立した虫塚は、現在も東京の寛永寺に残されています。
夏真っ盛りのいま、博物館でもたくさんの虫たちが皆さんを待っています。
九州国立博物館 文化財課
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