国指定史跡「竹原古墳」。
宮若市唯一の国指定史跡であり
市、ひいては国の歴史を語るうえで
欠くことはできません。
ただ、あまりにも身近な存在であることで
よく知らない·行ったことがない
という人もいるのではないでしょうか。
竹原古墳の魅力を知って、
行ったことがある人もない人も
古墳に会いに行きませんか。
■市文化財保護委員会委員長 石山 勲(いしやま いさお)
県文化財保護課職員や市文化財保護委員として、竹原古墳を五十年以上見守ってきた石山さん。
古墳見学の楽しみ方を語ります。
[プロフィール]
昭和20年、新潟県生まれ。早稲田大学・大学院で考古学を修め、昭和44年福岡県に入庁。元九州歴史資料館参事。平成18年から市文化財保護委員会委員長を務める。装飾古墳に関する書籍や論文を執筆するなど、装飾古墳への造詣(ぞうけい)が深い。
◆竹原古墳での思い出
竹原古墳との関わりは五十年を超えるのですが、最初の思い出は、五十四年前の私の結婚式に遡ります。壁画のモチーフをかたどった手ぬぐいを、参列者への引き出物として渡したんです。実は、最初に古墳を訪れた時のことはよく覚えていないんですが、きっと壁画の印象が強くて選んだんでしょうね。
その後も、県職員として古墳の整備に伴う調査に加わったり、市文化財保護委員として古墳の整備計画や啓発イベントに関わったり。一番思い出深いのは、石室にカビが発生してしまった時ですね。発生したのは壁画が描かれた箇所ではなかったものの、カビが壁画まで広がると貴重な文化財を損傷してしまうことになります。若宮町(当時)の担当者と、継続して消毒を行い、一年三カ月かけて、ようやく収束しました。文化財保存の難しさを痛感した出来事でしたね。
◆奥壁の「怪獣」に注目を
石室の奥壁に描かれた絵には、さまざまな解釈があります。例えば、四神思想説や、葬送儀礼説とか。
その中で、私の一番の推しは龍媒(りゅうばい)信仰説です。これは、古代中国の信仰で、水辺にいる龍のもとへ馬を連れて行き、龍の子種と掛け合わせて、駿馬(しゅんめ)を得ようとする信仰。注目は、壁画の上部に描かれた「怪獣」です。一見、馬のような形をしているものの、尾を逆立て、鋭いかぎ爪をもち、口から火のようなものを吐いている姿は異様です。当時、この信仰とともに、龍の姿・形を伝え聞いたこの地の豪族が、耳から聞いた情報だけで、龍としてこの「怪獣」を描いたのだと思うと感服します。今、私たちは様々な媒体で龍のイメージを目にしていますが、当時は口伝えでしかなかったでしょうからね。
また、この絵が描かれた背景を想像してみましょう。被葬者は生前に良馬を欲しがっていた。死後、あの世で願いを叶えてもらいたいと、子孫が龍媒信仰の情景を壁画に描いたのではないか。このように考えると、壁画を見る面白さが増しませんか。海の向こうから伝わった信仰を取り入れたグローバルな感覚にも、先進性を感じますね。
もちろん、壁画の解釈に正解はありません。共感できる説を思い浮かべながら見てもらいたいですね。
◆観察窓=会葬者の視点
壁画は、観察室からガラス窓越しに見ることができるのですが、この窓の位置は、古墳の会葬者が被葬者と最後のお別れをした場所と重なるんです。この位置から見える範囲にしか壁画は描かれておらず、明らかに会葬者の目を意識して壁画の構図が決められています。
こういうことからも、この古墳を作った人の、壁画に込めた思いが伝わってきて面白いんです。壁画は被葬者に捧げたものであると同時に、会葬者にもアピールするものだったのだな、と。
◆科学技術の力に期待
竹原古墳には、分かっていないことがまだまだあって、今後は科学技術を駆使した解析に期待しています。例えば、壁画を描いた顔料。その原料を解析すると、他の古墳や遺跡との関係が見えてくると思います。墳丘を調査する技術も、発見当初から進展しています。墳丘の上からレーダー探査することで、地中のひび割れ箇所や小動物の抜け穴など、古墳に悪影響を与える要因の対策が進み、より良い保存状態を継続できます。
また、高精度のカメラで石室内を撮影することで、壁画の下書き線や筆づかいの癖などが分かるかもしれません。科学の力に期待することは尽きないですね。
最後にぜひ知ってほしいのは、竹原古墳は全国の装飾古墳の中で、唯一、予約不要で見学できるということ。装飾古墳は、扉の開閉などで外気温の影響を受ける懸念や、職員が古墳の保存施設に常駐するのが困難などの課題があります。このような理由から、見学日を限定したり、予約制にしたりする古墳ばかりなんです。ここは、古墳の近くにある民芸庵という福祉団体に、見学者の対応や日々の観察、異常の報告などを委託しているので、常時見学できるんです。市と福祉が協働で古墳を管理する先進的な事例なので、今後も続いてほしいですね。
■竹原古墳
直径約18メートル、高さ約6メートルの円墳で、6世紀後半に築造。遺体が埋葬された横穴式石室は、前室・後室という2つの部屋からなり、赤と黒の絵の具(顔料)で馬や人物、波などの文様が描かれる。
このように、石室や棺の内・外面に彫刻や彩色により文様や絵画などの装飾を施した古墳を、装飾古墳と総称する。
描かれた絵の内容は、朝鮮半島など大陸の思想の影響を受けているとされる。装飾古墳として歴史的・美術的に高く評価され、昭和32年国史跡に指定された。
所在地:竹原731番地2
見学時間:午前9時から午後4時まで
休館日:月曜日(祝日の場合はその翌日)、年末年始
入館料:大人…220円 中高生…110円 小学生…50円
問い合わせ:本庁社会教育・文化推進係
【電話】32・3210
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