福岡県では毎年7月を「同和問題啓発強調月間」と定め、同和問題に対する正しい理解と認識を深め、解決するための啓発を行っています。
「寝た子を起こすな」ってどういうこと?
~差別の実態と歴史的事実から考える~
人にはそれぞれ故郷があります。生まれ育った場所に、愛情や誇りを持って生活しています。
人は生まれる場所を選べません。あたりまえの話です。私たちが暮らす社会には、この「あたりまえ」のことを理由にした、いわれのない差別があります。
それは、生まれた場所や育った場所、住んでいる場所で人の値打ちに差をつける「部落差別」です。偏見による不当な選考で就職できなかったり、世間体を気にする両親や親族に結婚を反対されたり…。
部落差別によって引き起こされるさまざまな人権侵害は「同和問題」と呼ばれ、日本における深刻で重大な社会問題です。
※詳しくは本紙をご覧ください。
■暮らしの中に存在する「差別」という社会問題
基本的人権を侵害したり、本来平等であるべきものを不平等に取り扱ったりすることを「差別」といいます。
人間は、誰しもがかけがえのない生命を持っており、幸せに生きたいと願っています。これを踏みにじり、陥れることは絶対に許されません。
しかし実際は、職業や肩書きによる差別、女性に対する差別、障がい者に対する差別、貧富による差別、外国人に対する差別など、多くの差別が存在します。差別は、さまざまな理由で私たちの生活の中に存在していますが、いずれの場合も「人権が侵害されている」という点では同じです。
差別の中でも、同和問題は歴史的過程で形成された日本固有の人権問題であり、現在も同和地区出身という理由でさまざまな差別を受け、基本的人権を侵害されている人たちがいます。基本的人権が保障される現代において、重大な社会問題です。
■同和問題を考える
インターネットが普及した現代社会では、匿名性を悪用した差別的書き込み、就職や結婚などに際した身元調査に係る戸籍謄本・住民票の不正取得などの差別事案が発生しています。
令和3年に県が行った人権に関する意識調査では、「あなたのお子さんが同和地区の人と結婚しようとしたとき、あなたはどうしますか?」の問いに対して、「家族や親類の反対があれば結婚は認めない」「絶対に結婚を認めない」など、否定的な回答は5パーセント以下ですが、「わからない」「回答なし」が2割弱あります。この2割弱の回答者は、否定派に回る可能性がある潜在層ということです。
同和地区出身であるという理由だけで不当な扱いをする差別意識が今も存在することを認識し、同和問題を他人ごとではなく、自分自身のこととして真剣に考え、差別の解消に向けて努力していくことが大切です。
■同和問題は、そっとしておけば自然になくなる?
これは「寝た子を起こすな理論」と呼ばれる考え方です。
知らない人に同和問題を教えることは、かえって差別を教えることになる。
↓
だからこのままそっとしておけばよい。
↓
そっとしておけばそのうち同和問題は自然になくなる。
このような考え方であり、「余計なことはするな」という意味になります。
何も知らない人は、差別意識や偏見をもった人の何気ない言葉で、差別意識や偏見が芽生えてしまうかもしれません。同和問題自体を知らなければ差別意識は生まれないため、「寝た子は寝たままにしておけ」ということです。
一見、理にかなった考え方のようにも思えますが、果たしてそれが差別の根本的な解決になるのでしょうか?
■「寝た子を起こすな理論」は正しい?正しくない?
差別が現存している状況で、何もせずにそっとしておくことは、差別を温存しているだけであり、解決にはなりません。事実、明治4年の「太政官布告(解放令)」から全国水平社創立までの約50年間は、何もせずにそっとしておいた状態だったのですが、差別はなくなりませんでした。前述した考え方を持つ人も、いざ自分の子どもの結婚問題になると反対するなどの実例があります。
寝た子に対しては「正しく起こすこと」、間違って起きた人には「正しく起こし直すこと」が必要です。正しい知識を持ち、間違った考え方は正しく修正する。差別に対する揺るぎない判断力・行動力を身につけ、差別に対して憤り、差別をなくすという強い気持ちをもつことが大切です。
正しい教育と啓発によって「起こす」ことが、同和問題の解決につながるのではないでしょうか。
■「なるほど人権セミナー」を開催します
【第1回】7月9日(火)
内容:「今ここにある部落差別」
講師:吉岡綾さん(部落解放同盟福岡市協議会)
【第2回】7月18日(木)
内容:「部落差別・人権問題を『いま、ここ、自分事』として考える」
講師:谷口研二さん(福岡県人権啓発情報センター)
【第3回】7月30日(火)
内容:「人権が尊重される社会の実現をめざして」
講師:鍋山公一さん(福岡県人権研究所)
時間:19:00~20:30
場所:保健・福祉センター「はなやぎの里」3階多目的ホール
対象:どなたでも参加できます。
定員:各100人程度
※予約不要
■同和問題啓発強調月間講演会
内容:「部落問題の今と、これからの社会づくり」
講師:武田緑さん(学校DE and Iコンサルタント)
日時:7月20日(土)、13:30~(12:30開場)
場所:クローバープラザアリーナ棟2階大ホール
問合せ:生涯学習課人権・同和教育係
【電話】0943-32-0093
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