市内の歴史遺産のロマンを追いかけるシリーズ
■二十五.渋沢栄一と秋月藩
令和6年7月に新紙幣の発行・流通が始まり、新紙幣の肖像画には渋沢栄一が採用されています。渋沢栄一は「日本資本主義の父」と呼ばれ、明治時代に日本を発展へと導きました。渋沢は、大正5年(1916)に『論語と算盤』を著し、経済を発展させ国全体を豊かにするためには、利益を独占せずに、社会に還元することが肝要であるとした「道徳経済合一説」という理念を示しました。欺瞞(ぎまん)、不道徳、権謀術数(けんぼうじゅっすう)的な商売は、真の商売ではないと語っています。
彼の道徳の基となった論語の教書に『論語語由(ろんごごゆう)』があります。同書は、1793年に福岡藩の学者・亀井南冥(なんめい)が著したもので、「寛政異学の禁」の中、秋月藩8代藩主黒田長舒(ながのぶ)により江戸で発行されました。長舒が南冥に寄せた信頼を読み解くことができます。
渋沢は、実業家・安川敬一郎から『論語語由』を紹介され、同書に親しみました。経済に道徳を併せようという考えから、商いはまず人倫(じんりん)(人として守るべき事)に沿うことが第一であると説いています。社会規範を大切にし、公私に照らし公私が反するときは、公を採るという姿勢を明らかにしています。
『論語と算盤』は渋沢理論の集大成であり、『論語語由』を通して、南冥や長舒、紹介した安川敬一郎の考えなどが盛り込まれているといえるでしょう。渋沢の理念には、秋月や福岡で育まれた思想や理(ことわり)が生かされています。新一万円札を手にされた時、渋沢栄一に思いをはせてみてはいかがでしょうか。
※1 安川敬一郎:福岡藩儒の家に生まれ、後に安川電機を始め多くの会社を創業
問合せ:市文化・生涯学習課
【電話】28-7341
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