◆価値を守る
◇今の子ども達は教育の段階から現実を見る分、とても頼もしいですね。しかし、そんな教育を受けていない私たちはどうしたらよいのでしょうか。
その答えは改めて日常の消費活動に目を向けることでしょう。例えば、一昔前までは100円で買えていたものが最近は買えなくなったという実感はないでしょうか。
◇最近の物価高騰よりも前から実感としてあります。特に子どもの頃によく買っていたものは値段を覚えているので、今の値段を見ると「えっ」と思うこともあります。
それがインフレです。デフレが続いた日本でも、もっと長い目で見ればモノの値段が少しずつ上がってきました。同じように今後、毎年2%ずつ物価が上昇していくとすると、現在の100万円の実質的な価値は、20年後には67万円。なんと3割以上も価値が目減りしてしまうことになります。
◇せっかく目標を立てて貯金したのに、いざ使う時に足りないってことですか。
そのとおりです。インフレの環境下において、資産を現金で保有していると、物価の上昇に伴い資産価値は目減りしてしまいます。「預金=安全」と言われた時代もありますが、預金金利が物価上昇率を上回らない限り、預金の実質的な価値は目減りしていきます。私たちのモノを買う力(購買力)を維持・向上させるには、インフレに強い資産で運用を行うことが大切になってきます。
◆資産所得倍増って何?
◇本題です。政府が掲げる「資産所得の倍増」とは、どういう考えなのでしょうか。
政府は「金融資産所得の拡大などで、家計所得の増大を図り、多様な働き方の推進等を通じ企業の生産性を向上させ、さらなる賃上げにつながる社会を創る」として、資産所得倍増プランを掲げています。具体的に、投資経験者と投資の倍増を目指すとしており、資産形成について大胆な制度改正を行っています。
◇「とにかく投資してください」と言っているように聞こえますが…。
同感です。日本銀行が3ヶ月ごとに公表する「資金循環統計」によると、昨年3月末の時点で個人が保有する預金や株式、保険などの金融資産は、去年の同じ時期よりも1.1%増加して2043兆円となっています。全体の半分以上を占める「現金・預金」は、1.7%増加して1107兆円となりました。
政府としては、これらの資金が市場に流入することで経済活性化を図りたい意図があるような気がします。
個人の資金が市場を通して企業に流れ、その資金を活用して強くなった企業から、賃上げや配当という形で個人に再び資金が還流するという好循環を作り出すための政策のひとつにNISAやiDeCoがあります。今年から変更された新NISAは、より簡素で分かりやすく使い勝手の良い制度となり、これまで以上に投資をしやすい環境が整ってきていると思います。
◆資産形成の考え方
◇具体的にどうやって資産形成をすればよいのでしょうか。
まずは、ご自身の人生で将来発生し得る支出を考えてみることから始まります。結婚、出産、教育、住まい、老後、色々な場面があると思いますが、それぞれに必要な一般的な資金の相場を事前に知ることが重要です。
◇莫大な金額が出そうで何だか怖いですね…。
気持ちは理解できます。金額によっては大きなプレッシャーとなることもあると思います。しかし、私がお伝えしたいのは「時間を味方につける」ことが処方箋になるということです。
◇一体どういうことですか。
例えば、40年間、毎月1万円ずつ積み立てた場合、合計額は480万円となります。しかし、同じ金額を年平均2%で運用したとすると、724万円となります。これが時間と経済の力です。短期間でみると価格が上がったり下がったりしますが、長い時間をかけて積み立てをすることで、リスクを軽減しながら資産を増やすことができるようになります。短期間の値動きに慌てることなく、じっくりと保有する長期投資を実践することが効果的に資産を増やす大切なポイントです。
◇貯金だと絶望的ですが、投資だと何だか希望が持てるようになりました。
ご家庭の資産や所得・支出のバランスを把握し、将来考えられるまとまった支出を伴うイベントを想定した上で、毎月積み立てできる金額や、長期で運用できるまとまった資金がいくらあるかを検討してみましょう。
そして、時間を味方につけるためにできるだけ早く、投資を始めることが大切です。また、金融教育によって子どものうちから「お金の大切さ」「お金の使い方」「お金の役割」を学ぶことができ、子どもたちの生きる力を養います。「備えと教育の一環」として話し合ってみてはいかがでしょうか。
鳥越さん、ありがとうございました。
教えてくれた人…
福岡銀行行橋支店支店長 鳥越茂樹さん
「貯蓄から投資へ」をサポートしていくのは地域金融機関としての役割と思っています。当行では、一人ひとりに合わせた資産運用プランをご提案するサービスなどを行っています。どうぞお気軽にご相談ください。
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