■『抗酸菌感染症』(前編)結核・らい
2021年の日本の結核患者さんの新規発生数は10万人当たり9.2人となり、低蔓延国の基準である10以下になりました。喜ばしいことで、いわき市でも新規患者さんは減少しています。しかし、油断してはいけません。免疫力の低下した高齢の方や外国生まれの若い方の結核患者さんが増加しています。
結核菌は抗酸菌の仲間です。多くの細菌は、アニリン系色素で染色しても酸やアルコールで脱色されますが、結核菌は脂質に富んでいるため脱色されません。それゆえ、抗酸菌と呼ばれます。抗酸菌には、結核菌やらい菌があり、それ以外の抗酸菌はまとめて非結核性抗酸菌と呼ばれます。
らい菌によるらい病は、今はハンセン病と称されます。感染力は弱く治療法も確立されておりほとんど治りますので隔離されることはありません。戦前からあった「らい予防法」が1996年に廃止されるまで、ハンセン病患者さんは隔離政策と社会的偏見で辛い人生を余儀なくされました。
結核菌は空気感染します。痰に菌が混じっている人は、菌がなくなるまで隔離される必要があります。しかし、現在、いわき市にある結核病棟は医師不在により閉鎖されています。大半の患者さんは茨城県の病院に紹介され、排菌が止まり感染力がなくなるまで1カ月以上の入院治療を余儀なくされています。
茨城県の結核治療病院に感謝するとともに、早くいわき市に呼吸器科医が常勤し結核病棟が再稼働されますよう祈っています。
■けんこうQandA 放射線治療(7)
Q:乳がんの放射線治療について教えてください。その(2)
A:今回は、乳房温存術後の放射線治療の具体的な流れについて説明します。最初に、治療計画用のCTスキャンを撮影し、患者さんごとに最適な治療方向や線量分布を計算します。治療は1日1回、週5日(月~金)で5~6週間行います。1回の治療に要する時間は準備を入れて15~20分程度で、治療中には痛みなどは感じません。仕事をしながらでも治療が受けられます。最近では治療期間を3~4週に短縮して治療する「寡分割照射(かぶんかつしょうしゃ)」も行われています。副作用としては、治療の後半に皮膚が赤くなったり、ヒリヒリしたりする放射線皮膚炎が出ることがありますが、治療後には治ります。時には、治療後数カ月以上たってから放射線による肺炎が起こることがあります。長期の副作用としては、上肢のむくみ、神経障害、心臓への影響や、二次的発がんの増加が報告されていますが、これらは非常にまれですので、過度に心配する必要はありません。
■乳腺外科(7)
ー遺伝性乳がんー
乳がん領域の大きなトピックに、遺伝性乳がんがあります。乳がんでは、患者さんの約1割に「BRCA」と呼ばれる遺伝子の病的変異が認められます。よく知られているのが、俳優のアンジェリーナ・ジョリーさんが2013年に乳房を予防的に切除し、2015年には卵巣も予防切除したことでしょう。彼女はこの遺伝子変異が見つかったため、がんを発症しないうちに、切除に踏み切りました。
日本では、2020年にBRCA遺伝子検査が保険適用となりました。乳がんが見つかった方のうち、45才以下、または第3度までの近親者に乳がん経験者がいる場合などの病的変異がある可能性の高いケースが対象となります。
乳がん患者でBRCA遺伝子に異常が確認された場合、乳房温存手術を実施できる場合でも原則として乳房全摘を推奨し、反対側の乳房の予防切除も検討します。卵巣がんの発生率も上昇するため、卵巣の予防切除も検討します。さらに本人だけでなく、血縁者の遺伝子検査も勧めていきます。
◎かかりつけ医の紹介・相談は、医師会事務局へ
(ホームページURL【HP】https://www.iwaki.or.jp)
提供・問い合わせ:(一社)いわき市医師会
【電話】38-4201
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