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【特集】おかいこ様のはなし(2)

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福島県二本松市

■時代を紡ぐ「蚕」とともに50年

今では少なくなった養蚕農家ですが、50年前には、県内で3万戸以上、市内でも多くの方が養蚕に携わっていました。安齋農園を営む安齋孝行さん(式部内)は、15歳で養蚕に携わり、そのキャリアは50年以上。今年も「蚕」を育てています。

蚕は、卵からかえり、4回脱皮し、糸を吐き、繭を作りサナギになります。卵は小さく、2千個でおよそ1グラムの重さ。
専用の紙の上に産み付けられた卵は、孵(ふ)化すると「1齢幼虫」と呼ばれます。脱皮をするごとに、2齢、3齢…と呼び名が変わり、5齢になると、間もなく糸を吐き始めます。

安齋農園にやってくる蚕は「2齢幼虫」。それまでは、田村市都路地区にある稚蚕飼育所(JAふくしまさくら運営・写真1)で大切に育てられています。
この稚蚕飼育所には、福島県内にとどまらず、遠く三陸地方からも蚕を買い付けにやってきます。人工飼料で育てる稚蚕飼育所もある中、ここで育つ蚕は、天然の桑を与えられて大切に育てられています。安齋さんによると蚕の成長は「桑育にはかなわない」とのこと。元気に育った蚕の幼虫が、良い繭、良い糸を作るのにはかかせません。
安齋農園にやってきた蚕は、専用のカゴに分けられます。この日は16万頭が、孝行さんと妻・とく子さんによって手際よくカゴに移されました。(写真2)
そして、大切に育てられます。

蚕は「頭(とう)」と数えます。これは、蚕が人間に飼われている家畜であるためと言われています。蚕は野生生物としては存在せず、人間の管理なしには生きていけません。繭になると「粒(りゅう)」と数えられます。

蚕は、良質な桑を好みます。孝行さんは「桑をたくさん食べると、食べる分だけ大きく育つ。大きく育っていくのを見ることは、養蚕の楽しみのひとつですね」と話してくれます。
安齋農園の桑園は1町5反歩(1・5ヘクタール)ほど。日当たりの良い畑で栽培されています。大きくなるにつれ、桑の葉をたくさん食べるようになる蚕。蚕に大きく育ってもらうためにも、多くの桑を育て、手入れをし、そして、良質な桑の葉を蚕に届けます。(写真3・5)

「お蚕様」と呼ばれ、大切に育てられる蚕。そんな蚕にとっての神様ともいわれるのが「猫」。養蚕農家と猫は、切っても切れない大切な関係です。

実は、蚕にとっての天敵はネズミ。ネズミは、幼虫のお蚕様もサナギになったお蚕様も、襲って食べてしまいます。そんなネズミからお蚕様を守ってくれるのが猫というわけです。養蚕農家にとっての猫は、まさに「守り神」となっています。(写真4)

そして、いよいよ上蔟(じょうぞく)。この上蔟のタイミングは、なかなか難しいもの。この見極めは、孝行さんよりも、とく子さんの方が得意。「蚕は子どもを育てるように育てる」とも言われますが、子どもの気持ちに寄り添うのは、母親の方が得意なことが多いのでしょうか。子・孝和さんも「この見極めのタイミングは難しい。熟練の感覚が必要です」と話してくれました。

蚕と桑を、カゴの下に敷いていた網ごと持ち上げて分けていきます。蚕の体重は生まれた時の1万倍。16万頭もいると、この大変な作業を数十回と繰り返すことになります。(写真6)

いよいよ「蔟(まぶし)」の出番です。安齋農園では、蚕を育てている作業場の2階に、この格子状になった四角い枠「蔟」などの道具を保管しています。
2階では、いつでも蚕が繭作りを始められるよう準備がなされています。(写真7)

上蔟とは「蚕を繭となるための場所である蔟へ移すこと」。蔟の近くに振り分けられた蚕は、自分の部屋を探しに、蔟を上へ上へと登っていきます。

蚕は、無理やり部屋を割り当てても繭を作ってはくれません。自分で部屋を探します。早く部屋を決める蚕もいれば、なかなか部屋が決まらない蚕も。それぞれに性格が違っているようです。
ある程度、蚕が部屋を決めだしたら、蔟を天井から吊るします。天井から吊るす回転蔟は、重みでくるくる回り、重い部分が「下」で、軽い部分が「上」になります。

この回転蔟は、蚕の上へ上へ登る習性を生かしたもの。蚕が糸を吐いて繭を作り始めると、部屋の中が重たくなります。すると、繭になった部屋が「下」、空いている部屋が「上」になります。上へ向かう習性の蚕は、どんどん空き部屋へと向かっていきます。(写真8)
最後は、空いている部屋がなくなり、蔟が繭でいっぱいになります。

上蔟からおよそ1週間。蚕は大きくなった繭の中でサナギになっています。そうなると、サナギが入った繭を蔟から外し、美しい繭は出荷を待つのみとなります。(写真9・10)

時間が経つと、サナギは成虫である蛾(が)になり、繭を破って外に出てしまいます。そうなる前に繭は出荷され、製糸所へ移されていきます。
安齋農園では、県内外に繭を出荷していますが、そのなかで多くの繭を出荷しているのが、株式会社宮坂製糸所(長野県)。この製糸所で、乾繭(かんけん)、煮繭(しゃけん)などの工程を経て、繭は、きれいな「糸」になっていきます。(写真11・「岡谷蚕糸博物館」(長野県)提供)
1粒の繭から取れる糸は約1500m。安齋農園で1年間生産される繭から取れる糸をつないでいくと、地球から月までを往復できる長さになります。
※詳しくは本紙をご覧ください。

◆安齋農園
養蚕のほか、お米や椎茸、菊などを生産。子・孝和さんは、今が旬の福島県ブランドきのこ「ふくふくしめじ」も生産しています。

安齋 孝行(あんざいたかゆき)さん とく子(こ)さん
孝行さんは、工場勤務を経て、職場結婚をしていたとく子さんとともに、昭和51年に就農。
養蚕の最盛期には1年間に12回繭を出荷し、全国トップレベルの繭生産量(7t)を実現。繭の価格が下がった時期には、養蚕の機械を活用して菌床しいたけ栽培を開始。
東日本大震災時は、県指導農業士会会長として震災復興に尽力。平成2年全国農林水産祭(蚕糸・地域特産部門)天皇杯など数々の賞を夫婦で受賞。

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