■「空港ピアノ」
須田博行
空港ピアノをご存じでしょうか。東日本大震災で津波にのまれ、多くの人の力でよみがえった「復興ピアノ」です。仙台空港に期間限定で設置され、空港を訪れた人が自由に弾くことができます。その映像が12月15日にNHKで放送されました。
最初にピアノの前に座ったのは、神戸から来た青年でした。東日本大震災が起きたとき最初に思ったのは、日本中からの支援で復興した神戸のまちのことだといいます。ひとごととは思えず募金活動を行ったそうです。
弾きはじめたのは、坂本九の「上を向いて歩こう」。明るく軽快な演奏でした。いろいろな場面で耳にし、また自分でも歌うこともありましたが、いままでこの曲で涙が出ることはありませんでした。でも今回は、上を向かないと涙がこぼれてしまうことを経験しました。
番組ではその後4人が演奏し、最後の演奏は“童謡 故郷”でした。私がとても好きな曲です。演奏者は、震災のとき仙台の大学の音楽科に通っていて、仲間と被災地を回ってこの曲を弾いたそうです。家族や故郷を思い涙する人から「ありがとう」と感謝されたことで、逆に自分が励まされたと言っていました。
この復興ピアノの演奏でなぜ涙が出るのか。ピアノをよみがえらせた人たちの想いと、演奏者の被災地に寄り添う気持ちが、ピアノに命を吹き込んだからだと思います。
音楽は、悲しいときには心を癒し、辛いときには力を与え、楽しいときはより楽しくさせてくれる。その時々に合わせて人の心に寄り添ってくれます。音楽を創るのも、歌うのも、奏でるのも、そして聴くのも「人」です。人を通して想いが通じ合えるからこそ聴く人に感動を与える。それが、音楽の持つ変わらぬ力だと思います。
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