ー花たちのおいたちー(4)
箱崎美義著
■3つづき
この、かきつばたは、僅か中国や韓国などに野生しているが、殆んどは日本に野生している。特に愛知県知立(ちりゅう)市八ッ橋辺りに多く自生しており日本が原産国となっている。
◇かきつばたの本名、別な呼び名のゆらい
かきつばたの本名は、かきつばた、燕子花である。別な呼び名は、かきつ、貌好花(かおよばな)、顔佳草、杜若(かきつばた)などがある。本名の、かきつばなは、前出の「書き付け花」に因んでの呼び名である。燕子花は、平安時代、万葉集歌に出てくる呼び名である。別な呼び名は、いずれの呼び名も平安時代の万葉集、伊勢物語の歌物語に初めて出て来た呼び名である。
◇かきつばたの生い立ち
日本国が原産国であるこの、かきつばたが、わが国で最も多く野生して、いち早く発見された所は、三河八ッ橋、現在の愛知県知立(ちりゅう)市内で、歴史的にも古くから知られている。花も美しいこの、かきつばたが日本で初めて発見された動機は、伊勢物語で、一人の男の在原業平(ありわらのなりひら)が、この世に用がないと思い、京(みやこ、京都)に住むのもいやになって東(関東一帯)の方へ住むべき国を求めようと、お伴も一人、二人という少数で京を旅立ったが、唯れも、東(あづま)への道など知っている人もいないので、道に迷いながらようやくにして三河国八ッ橋という所に辿りついた。ここで一休みしようと沢辺の木陰におりて乾飯(ほしいい)(古くは、米をむしてから乾して旅などに出かける時に持っていく)を食べた。時は5月頃で緑の風が吹き沢辺には、かきつばたが美しく咲いていた。業平(なりひら)は、早速この、かきつばたを題材にして、かきつばたの5文字を句の上にすえて旅の心をよんだ。それは、か(○)ら衣 き(○)つつなれにし つ(○)ましあれば は(○)るばる来ぬる た(○)びをしぞ思ふという歌で、添えなれた妻を都に残して来たので、この遠く来た旅が悲しく思われる、という意味であるが、お伴の者の心もまた同じことで、この歌に感動し、みな乾飯の上に涙を流したということを伝えている。かきつばたの観賞は、切り花、鉢植、花壇や菖蒲田、いけ花などで愛でる。
■あじさい
あじさゐの色をあつめて虚空とす 岡井 省二
紫陽花や家屋の腕時計 波多野 爽波
さみだれの雨に障らずあじさいはぬれ重りして咲きひろがれり 岡 麓
◇あじさいの生い立ち
あじさい(紫陽花)は、1,800年前、4世紀頃、平安時代に、日本の暖地や海岸近くの山野に自生していた、がくあじさい(額紫陽花)を母親として生れ育ったユキノシタ科の園芸種の観賞花木である。日本には、このアジサイ属が20種以上あり、野生種や園芸種も多く、まさに、アジサイの王国である。
(つづく)
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