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古河歴史見聞録

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茨城県古河市

■~詩集『楽園』で現代詩人賞受賞~ 散文詩の巨人・粕谷栄市
1千名あまりの名だたる詩人が所属する日本現代詩人会が主宰、現代詩の賞としては日本最大級といえる現代詩人賞。毎年3月に発表され、6月の「日本の詩祭」で贈賞されますが、42回目となる今年度は古河ゆかりの詩人・粕谷栄市先生の『楽園』が受賞しました。

◇10年ぶりの新詩集
粕谷先生の『楽園』が刊行されたのは昨年10月、前作から10年ぶりのことです。もしかするともう先生の新しい詩集にはお目にかかれないのではないかと危惧していた矢先、卒寿での刊行に驚嘆(きょうたん)するとともに、心躍る思いで入手、さっそくページを開いてみました。
やはり1行・25文字の散文詩!
先生が詩作においてこだわってこられた形式に、思わず頰をゆるめたのもつかの間、ハンマーで殴られたような衝撃を受けました。自分は何者で、何をしてきたのか。死は人生の結末なのか、苦痛からの解放なのか…。
38篇の散文詩の、次から次へと迫りくる言葉の壁に圧倒され、読了後しばらく茫然(ぼうぜん)としていたことを覚えています。

◇心揺さぶられる散文詩
先生は一貫して散文詩の型式にこだわってきました。
幽明の境を自在に往来し、あるいは、一見、現実にはあり得ない鏡の中の反世界を描いたような先生の作品について、かつて谷川俊太郎氏は「粕谷さんは生を詩に翻訳する」と評しています。
幻想的でありながら強烈に現実性を感じさせる、しかも淡々とした語り口にもかかわらず、圧倒的な迫力を持つ先生の詩には心を揺さぶられずにはいられません。
「人に感動を喚起する活動・作品」を芸術の定義とするならば、粕谷先生の詩こそ、まさに至高の芸術品だと言えます。

◇現代を代表する詩人
ところで、粕谷先生は昭和9年、古河生まれで古河一高、早稲田大学商学部を卒業し、現在は市内で老舗の製茶問屋を営んでおられるという生粋の古河人です。
従兄(いとこ)の詩人・粒来哲蔵(つぶらいてつぞう)氏の影響で、中学・高校時代から詩への関心を深め、早大在学中は早稲田詩人会に所属します。大学卒業後、詩誌『ロシナンテ』『竜』『地球』などの同人となり、昭和47年、第一詩集『世界の構造』でいきなり第2回高見順賞を受賞し注目を集めました。翌年には草野心平らの有力詩人が多くいた詩誌『歴程』の同人に加わります。
その後、一時詩作から離れますが、平成元年に『悪霊』で第27回島崎藤村記念歴程賞を受賞。12年には『化体(かたい)』で第15回詩歌文学館賞、17年には『鄙唄(ひなうた)』『轉落(てんらく)』の両作で第55回芸術選奨文部科学大臣賞、23年には『遠い川』で第6回三好達治賞を受賞。今回の現代詩人賞受賞作の『楽園』を含め、これまでに刊行した個人詩集9冊のうち、7冊までもが文学賞を受賞しています。打率7割7分8厘。野球ならば、もはや何の施しようもない怪物的な打者です。
そんな現代を代表する詩人と同時代を過ごし、リアルタイムでその詩に触れることができる。しかもその詩人は私たちのすぐ身近にいる。何と幸運なことでしょうか!
文学館では9月28日から企画展「散文詩の巨人・粕谷栄市」を開催し、先生の詩業、作品の数々を紹介します。圧倒的な粕谷詩の世界を、ぜひ、味わってください。

古河文学館学芸員 秋澤正之

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