◆悲しむ心の大切さ
おおむら海辺のクリニック 院長 遠山啓亮先生
近しい人との「死」は誰でも避けては通ることができないものである。死というお別れ(死別)は人が経験するストレスの中で最も大きなものの一つである。大切な人を亡くした悲しみは当たり前のものであり、悲しみに蓋をしていると心の健康を害してしまうことがある。
大切な人を失う悲しみは古今東西変わらないが、ある調査では日本人の悲嘆反応には特徴があるとされる。(1)思慕(2)疎外感(3)うつ的不調(4)適応対処の努力、の4つであるが、このうちの(2)〜(4)は遺族の心身に大きな影響を与えることが多い。(2)は「自分の気持ちは誰もわかってくれない」と思い込み人に会いたくなくなる、(3)はうつと似た症状が数年にわたり続く、(4)は「亡くなった人の分まで頑張らないと」と無理に頑張ってしまう。また、別の調査では遺族の8割以上が「周囲の人の言葉に傷つけられたことがある」と答えている。「時間が解決してくれるよ」「寿命だったのよ」「いつまでも悲しまないで早く立ち直らないと」「辛いのはあなただけではないのよ」「あなたが長生きしないとね」「あなたの気持ちはわかるわ」「元気出して」「元気になったら出かけようね」「病気はどんな経過だったの?」「大往生だったのね」など、つい口にしてしまいがちな言葉が遺族を傷つけている。「これであなたも時間がとれるようになったんじゃないの」と励ますつもりの言葉は9割以上の遺族が「傷ついた」と答えている。遺族を前に何を話したらよいか戸惑い、つい口にしてしまうのかもしれないが、それが遺族を傷つけている可能性を知っておくことは大切である。また興味本位の病気の詮索も遺族を大きく傷つけているので控えるべきである。どのように声をかけてよいかわからないときは「辛かったね」の一言が望ましい。
大切な人とお別れした悲しみは時間経過で消えるものではなく何年も続いて当たり前。悲しみに無理に蓋をせず、しっかりと悲しむことが大切である。
<この記事についてアンケートにご協力ください。>