▽市長として対馬の現状をどのように感じていらっしゃいますか?
まずは、海について。対馬は島ですから、海とは切っても切れない関係です。そのような中で海水温の上昇など海洋環境の変化によって、これまで豊富な水揚げを誇っていたイカの不漁をはじめ、磯焼けによる海藻の激減、それに伴うアワビやサザエなどの減少といった水産資源の減少には強い危機感を持っています。海だけでなく、林業や農業といった島の第一次産業全体が厳しい状況に置かれていることは十分認識しているところです。
観光産業については、インバウンドの減少やコロナ禍を契機に国内の観光客に対馬を訪れていただく機会が増えてきました。これまでは、珍しい島の自然や歴史に触れていただくことが、観光の一番の目的で良かったと思うのですが、これからはそれだけではいけないと感じています。また、外国人観光客が年間41万人以上押し寄せることで生じた、いわゆる「オーバーツーリズム」への対応も行っていく必要があると思っています。
人口減少については、全国的に進んでおり、対馬だけの問題ではないのですが、スピードは他地域より速いことから、喫緊の対策が必要だと考えています。特に市内に独身の方が多くいらっしゃること、年間の出生数が減少している現状に危機感を感じています。
他方、有人国境離島法の恩恵もあり、本土地域との行き来など、島に住む人たちの生活の質や利便性は向上していると感じています。また、離島ではありますが、ヘリ搬送を含め医療体制は本土地域に近い状況が提供できているのではと感じています。移住者も年々増え、昨年度は170人ほどの方が対馬に来てくださっています。
▽3期目の市政についてのお考えをお聞かせください。
現状の中で課題として上げていることですが、人口減少については、国全体の人口が減っていることを考えると、減少を止めることは厳しいと感じています。しかし、その流れを緩やかにすることはできると思いますし、やらなければいけないことだと思っています。
その中で、いわゆるマッチングという男女の仲を取り持つ取り組みも、参加対象の拡大を考えていきたいと思っています。
また、マッチングだけで終わるのではなく、その後の結婚や子育てにもお手伝いができるように取り組むことで、人口減少や少子化についても良い影響を与えるのではないかと考えています。
企業誘致についても、通信回線の向上に向けた施策など、環境整備を行ってきました。これにより、リモートワークやワーケーションなどに対応するだけでなく、地域が抱える課題解決に取り組むことに企業価値を見出している企業を呼び込むことができます。現在、誘致に向けて複数の企業に声をかけているところです。実現すれば、島内での仕事に幅ができ、若者や移住者の定住促進につながると考えています。
水産業をはじめとする第一次産業や観光産業は、これからも対馬の柱として大切にしていくところですが、それぞれが独自の取り組みを行ってきたことで、十分にその魅力を発揮できず、資源を利活用しきれなかったところがありました。すでに取り組み始めているところもありますが、水産業の現場と観光業を結びつけ、単に対馬で魚を食べるだけでなく、見学や体験を含めたいわゆる「海業」の推進など、観光や研修で対馬に来る人たちに対し、より幅の広いコンテンツ作りを行っていきます。当然、水産業だけでなく、林業や農業など、対馬の恵みをフルに活用した取り組みを考えていきます。
▽市長が思い描く対馬(しま)づくりの中で、私たち市民の役割は?
市長として、対馬の未来をいろいろと思い描いていますが、市民の皆さんに活躍していただかなければ、絵に描いた餅となってしまいます。対馬の魅力を発信し、多くの人に対馬に来てもらっても、夕食に対馬で採れた新鮮な魚が出なくては、意味がありません。対馬の伝統的な家屋や伝統的な風習がなくなってしまっては、対馬に来る意味がなくなってしまいます。皆さんの日々の暮らしの中に残る対馬らしさを次世代につないでいく必要があるのです。これは「昔の暮らしに戻せ」とか「不便な暮らしをしなさい」と言っているのではありません。対馬らしさを芯にして、新しいもの、便利なものをうまく取り入れながら生活をしていくことが大事だと思うのです。日々の暮らしを磨き上げ、高めていくこと(ブラッシュアップ)こそ、SDGsが意味する、持続可能な社会の実現につながる大切な部分だと考えます。
▽対馬の舵取り役として見えている対馬の未来はどんなものですか?
対馬は、大陸との交流の歴史に代表される、対馬にしかないもので溢れています。それは、対馬に住む人たちの考え方や生活の仕方にも現れています。目指すべき対馬の未来は、都市部と違う時間の流れを作り出すことではないでしょうか。対馬に住む私たちが、悠久の歴史や自然環境に根付く、ゆるりとした時間を演出し、対馬以外に住む人たちに提供することができれば、対馬は世界に誇ることができるリゾートの島になると思っています。まさに、ミュージカル「対馬物語」で、宗義智が父である宗義調が残した言葉として口にする「島は、島なりに治めよ」という台詞そのものです。
市長という仕事は、価値観や意見の相違によって市民が分断した時、これからこの島が進むべき方向性を見極め決断して導くことだと、2期8年の任期を振り返り、強く感じています。これからの4年間、私が見えている世界をより多くの人と共有し、皆さんとともに歩みながら、対馬をより良い島にできるよう、舵取り役を務めてまいります。
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