長与町に立地する長崎県立大学シーボルト校。
すぐ近くの大学でどのような研究が行われているかをシリーズで紹介していきます。
■文学を研究するとは
国際社会学部国際社会学科
下野 孝文 教授
文学研究と言いますと、何か曖昧で、作品を鑑賞し、作者のメッセージ等を読み解くというイメージから、実用性と結びつかないものと捉えられているかも知れません。しかし我々にとって芸術は、生活を豊かにし、また創造性を育み、表現力を高める学びにおいても不可欠の領域であり、研究はその形成、発展を補う役割も担っていると考えます。
さて、高校生の皆さんの立場から考えれば受験の際、理系、文系と分けられた進学先は、大学では自然科学、人文科学などとも分類され、そこには科学という表現が付いています。それは、こういう理由(根拠)からこういう判断が導かれると研究は論理的でなければならないことを示してもいるからです。したがって、理系が数字、データを用いるのと同様、文系も客観的な事柄、要素を根拠として示し、読み手がなるほどと納得できる、説得力を持つ結論へと展開していかなければなりません。
たとえば作品が、歴史上の人物、事件をモデルとしていたならば、史料に残された記述、さらに他の資料も含めて作家はそれをどう利用しているか、また作家の成育過程、個性、生きた時代等々からの影響はないかなど、様々な要素が結びついた内容を一つずつ分析していかなければなりません。したがって、作品に潜むそうした要素を見出すためには古典、歴史、深層心理学など幅広い知識が必要とされ、それを用いて調査を重ね構成要素の一つひとつについて理由を示して論理的に結論へと導いていくことになり、これが実証主義という一つのアプローチになります。そこから、そのバトンを受け継ぐ新たな観点からの研究が、さらに続いていくわけです。
写真の研究書は、その実証主義という立場から遠藤周作が長崎を舞台としたものを描く際に参考にした様々な著作物を調査し、作品の造型、場面、描写などと照合する作業を経てその影響を考察した研究になります。
最後は自著の広告となってしまいました、ご寛恕願います。
写真:下野孝文著『遠藤周作とキリシタン―〈母なるもの〉の探究―』(九州大学出版会)
(※写真は本紙をご覧ください。)
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