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想いを石に刻む~高遠石工の歩いた道~

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長野県伊那市

■Vol.35「市内の貞治仏探訪(11)」
高遠の三名水の一つ「桂(かつら)の井」がある桂泉院(けいせいいん)は月蔵山の麓にあって、高遠城を見下ろしながら伊那の市街地、さらには将棊頭山、権兵衛峠まで望むことができます。山門をくぐると石積みの階段があり、その両脇にある2体の貞治仏が出迎えてくれます。階段脇には石垣があり、正に石造物の宝庫となっています。高遠の文化や景観には高遠石工が大きくかかわっていることを感じずにはいられません。
階段両脇の2体の貞治仏は、准胝観世音菩薩と延命地蔵大菩薩です。准胝観世音菩薩は美しく清らかな世界へ導いてくれる御利益があるのですが、安産や子授けといった女性の願いを叶える観音様として信仰を集めています。この准胝観世音菩薩は西国三十三所観世音菩薩のなかの1体として見ることはあっても、それだけが独立している状態で見るということは少なく、その意味で桂泉院のものは貴重です。建福寺のものと比べてみると、18本の腕の持ち物とポーズは共通していますが、桂泉院の方は蓮華座の下に2人の竜王(難陀・跋難陀)がいません。蓮華座から下は延命地蔵大菩薩に合わせたということでしょう。
延命地蔵大菩薩は座った姿で左膝を立て、左手に宝珠、右手に錫杖を持っています。この点は歴史博物館にあるものとも共通していますが、円形光背があるのは歴史博物館のものとの違いになります。光背は悟りの境地に達した者につきます。地蔵は悟りの境地に達している存在ですが、人間界にいて人々を天へ導く存在となっているため、中間的存在としてみられ、光背の有無が生じているものと思われます。
この2体は文政(ぶんせい)3年(1820年)に住職の祖良の依頼で制作されたことが分かる銘が刻まれており、貞治仏を研究する上で貴重な資料となっています。

問合せ:高遠町歴史博物館

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