塩尻ワインの歴史は130年以上。今では、15社1高校のワイナリーがあるほど日本有数のワイン産地となっています。ワイナリーが増えた要因の一つである「塩尻ワイン大学」。その卒業生や現在の受講生、未来の担い手である高校生は、塩尻のワインやブドウの何に駆り立てられるのか―。今回の特集では、塩尻ワインの魅力に迫ります。
■苦難を乗り越えた桔梗ヶ原のワインの歴史
塩尻ワインの歴史の始まりは明治23年。豊島理喜治が初めて、塩尻市の桔梗ヶ原でブドウ栽培をしたことから始まります。米国系品種のコンコードやナイアガラが桔梗ヶ原の風土によく合い、大きな収穫をあげました。その理喜治の成功を見て、桔梗ヶ原でブドウ栽培を始める人が少しずつ増えていきました。しかし、国が多くの軍事費をかけたものの賠償金がなかった日露戦争の影響を受け、日本が不況となったため、理喜治の農園は閉園してしまったのです。
明治44年には、林五一が桔梗ヶ原でナシやブドウなどの栽培を始めました。果樹の栽培をしながらも土づくりに奔走し、3年後に五一の農園で初めてブドウが実りました。
年々、ブドウの木は順調に枝を伸ばし、コンコードやナイアガラなどが収穫され、デラウェアなど新しい品種も積極的に栽培。五一の農園のブドウは出来が良く評判で、お金になるため盗難が後を絶ちませんでした。とげのあるバラを植え、番人を置き、何とかブドウを守りました。
ブドウの値段がどんどん上がり、桔梗ヶ原でのブドウ生産者はさらに増えていきました。その中に、塩原武雄(信濃ワイン創始者)の父・謙一もいました。時代も後押しし、生食用よりも高く売れたワイン用ブドウ。五一も自分の手でワインを造ることを決心し、上越にいる日本ワインの父と呼ばれた川上善兵衛を訪ねました。善兵衛の成功に励まされ、五一が開園した林農園で初めてのワイン「鷹の羽ポートワイン」を造りました。その後、不況やスペイン風邪の流行など苦難を乗り越え、桔梗ヶ原にワイン醸造会社が次々と設立されていきました。
■未来のための塩尻ワイン大学開講
本市では、市内ワイナリーの協力を得て、ブドウ栽培からワイン醸造、ワイナリー経営までを長い期間かけて学び、担い手を育てる「塩尻ワイン大学」を、平成26年に開講しました。
塩尻ワイン大学の開講を受け、起業環境の整備としてワイン特区(本紙9ページ参照)を申請し、開講と同年6月に認定されました。製造免許取得の要件が緩和されたことで、ワイナリーを設立しやすくなっています。
塩尻ワイン大学は現在までに、3期、60人が卒業し、その多くが卒業後も市内外でブドウ栽培やワイン醸造を行うなど活躍しています。そして、令和6年度からは塩尻ワイン大学第4期が開講し、ブドウ栽培などに情熱を持った20人が受講しています。今回は、塩尻ワインの今後を担う「人」に注目していきます。
■ワインが人をつなぎ、ワイナリーが地元をつなぐ
[信州大学 特任教授 鹿取みゆきさん]
長野県は日本で2番目にワイナリーが多く、ワイナリーが一番多い山梨県を抜くほどの勢いがあるワインの産地だと思っています。地理的にもアルプス山脈が美しく、景色とワインのイメージを結びつけて覚えている人も多いでしょう。
その長野県内にある塩尻市は、大手メーカーの産地というイメージやメルロの産地という印象が強くありました。しかし、「カベルネ・フラン」の赤や、いにしぇの里葡萄酒の「リースリング」の白など、今までにはない新しい品種のワインが出てきています。また、片丘地区の斜面にブドウ畑が増え、洗馬地区や北小野地区にもワイナリーが誕生し、産地が広がっています。一つの市の中でもブドウ畑に標高差があり、さまざまな味のワインが造られるようになってきました。これらから、塩尻ワインはもっと多様化していくでしょう。
ワインは、香りが多様な飲み物で、香りでいろいろなことを思い出し、会話が生まれ、数多くの料理に合わせて楽しめます。会話や料理を楽しむことで、人と人をつないでくれます。
そして、ワイナリーはまず、地元で愛されていくことが大切です。地元のワインを地元で飲んでもらえることが増えるといいですよね。
◇信州大学 特任教授 鹿取みゆきさん
他大学の研究者らと、栽培品種、気候、地質などの要素をデータベース化して「ブドウ栽培適地マップ」を作成中。また、ワインを核としたコミュニティの形成、地域活性化にも取り組む。ワインジャーナリストとしても活躍。
■塩尻ワインの主な歴史
[1890]
明治23年:桔梗ヶ原で豊島理喜治が初めてブドウ栽培を行う
30年:理喜治がコンコードやナイアガラ(米国系品種)のブドウ酒醸造の倉庫建設
44年:林五一が桔梗ヶ原へ入植、ブドウなどの栽培を開始
大正8年:林農園の初ワイン「鷹の羽ポートワイン」出荷
13年:県内最大のブドウの産地となる(104ha)
昭和27年:林農園がメルロ(欧州系品種)の栽培に挑戦
平成元年:「シャトー・メルシャン信州桔梗ヶ原メルロ」が国際大会で大金賞を受賞
2年:井筒ワインが国外の大会で銀賞を受賞
6年:信濃ワインが国外の大会で優秀賞を受賞
17年:林農園が国外の大会で金賞を受賞
26年:塩尻ワイン大学開講本市がワイン特区に認定
28年:全日空国際線で、アルプスのワインを提供開始
[2024]
令和6年:日本ワインコンクールで塩尻ワイン49点が入賞、8点が金賞受賞(全国最多)
■市内のワイナリー
(1)林農園(1919年醸造開始)
(2)アルプス(1927年醸造開始)
(3)井筒ワイン(1933年醸造開始)
(4)サントリー塩尻ワイナリー(1936年醸造開始)
(5)シャトー・メルシャン 桔梗ヶ原ワイナリー(1938年醸造開始)
(6)塩尻志学館高校(1943年醸造開始)
(7)信濃ワイン(1956年醸造開始)
(8)Kidoワイナリー(2004年醸造開始)
(9)VOTANO WINE(2012年醸造開始)
(10)サンサンワイナリー(2015年醸造開始)
(11)いにしぇの里葡萄酒(2017年醸造開始)
(12)Belly Beads Winery(2018年醸造開始)
(13)霧訪山シードル(2019年醸造開始)
(14)DOMAINE SOURIRE(2019年醸造開始)
(15)丘の上 幸西ワイナリー(2019年醸造開始)
(16)Domaine KOSEI(2019年醸造開始)
<この記事についてアンケートにご協力ください。>