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[特集]ワインを育てる人 ワインが育てる塩尻(2)

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長野県塩尻市

■卒業生がワインを育てる
日本ワインコンクール2024で、「いにしぇの里葡萄酒」の稲垣雅洋さんが金賞に輝きました。塩尻ワイン大学の卒業生で初の快挙です。稲垣さんら塩尻ワイン大学の卒業生で、現在もブドウ栽培やワイン醸造で活躍する人に、塩尻ワインや塩尻ワイン大学への思いを聞きました。

◆仲間と切磋琢磨。念願の金賞を受賞
[第1期卒業生 いにしぇの里葡萄酒 稲垣 雅洋さん(北小野)]
▽衝撃を受けた塩尻ワイン
東京の料理店で働いて10年。故郷で地元のワインが飲めるお店を開きたいと思い、塩尻市に帰ってきた稲垣さん。2006年に塩尻駅前でワインバーを開業した。
Kidoワイナリーを設立したばかりの城戸亜紀人さんと、ワインバー開業の前年に出会った。「市内で世界レベルのワインを造られていて。もしかして、自分でも造れるかもと思いました。ワインバーの開業と同時期に、北小野の畑にブドウを植えたのがワイン造りの最初です」

▽塩尻ワイン大学の在学中に、副業で始めたワイナリー
ワインバーが軌道に乗ってきた。「製造免許を取るには、通常は年間8000本以上を造る必要があるけど、ワイン特区なら3000本の製造でいい。自分の店での提供と酒屋への販売でさばけると思っていました。2013年に、塩尻市にワイン特区の申請について聞き、希望者がいれば申請すると答えていただき、翌年から塩尻ワイン大学を開講することも教えてもらいました」と、受講の経緯を話してくれた。
その後、塩尻ワイン大学を受講した。「全国から集まった同じ志を持つ仲間ができたこと、栽培や醸造の知識を得られたこと、たるや機械など設備の業者を紹介してもらえたことが今につながっています。税務関係の手続きを学べたことも良かったです。ワイナリー立ち上げの導入として非常に助かりました。同期とは今でも月一で勉強会をしていて、同時期にワイナリーを始めた人や同じ悩みを持つ人と相談できています」と、塩尻ワイン大学を振り返った。
2017年、塩尻ワイン大学4年生の時にワイナリー「いにしぇの里葡萄酒」を立ち上げた。「リスクもあり先が見えないため、立ち上げの時は家族で話し合いました。金銭面では、初期投資を抑え、少しずつ設備を増やすよう借り入れの計画を立てました。また、並行して飲食店を続けていたので、最初は副業ワイナリーなんて言っていたんです。初めからワイナリーに全振りすると相当リスクが高かったですから」。コロナ禍だったことや、ワイナリーの利益が出てきたことから、2021年にワインバーを閉めた。

▽念願の金賞受賞と今後も挑戦し続ける姿勢
2024年に日本ワインコンクールで赤ワインが念願の金賞受賞。「コロナ禍になってから開催されていないですが、過去のコンクール後はホテルで試飲会があり、飲食店をやっていた時に行ったことがあるんですよ。金賞受賞のワインは会場の真ん中で直接提供できる場所が与えられ、銅賞だと周りにワインが置いてあるだけ。2020年に銅賞を取ったけど、反響は特になく金賞に憧れていました。今年は、東京で金賞受賞者だけの試飲会があり、念願叶い参加することができました」と笑顔を見せる。
塩尻ワインの現状について「品質が高く、コスパに優れていて、老舗からも学べるのでワインの産地として良い地域だと思います。ただ、全国的なアルコール離れにより消費者が減少しています。ワイナリーやイベントなど供給が増えているため、さらに認知してもらうことが大切です」と指摘。「新しい人が新しい所でブドウ栽培を始めていて、産地が形成されてきているので、地区ごとの特徴を言語化できれば消費者にとっても魅力的な産地になると思います」と、今後のワイン産地である塩尻市に期待を寄せる。
「良いブドウが採れないと良いワインができない。収穫時期を調整するなど品種の個性を出せるよう研究しています」と、ワイン造りへのこだわりと熱い思いを語る。今後挑戦したいことを聞くと、「北小野地区に合った品種を探したいと思っています。品種特性をいかに引き出せるか。最初に植えた品種のピノ・ノワールで、個性を出したワインを造れるよう力を入れていきます」。今後も稲垣さんの活躍から目が離せない。

◆ワインの敷居を高くしたくない
[第2期卒業生 橋本 美範さん(宗賀)]
東京でブドウ栽培とワイン醸造のボランティアをしていたときに、塩尻ワイン大学を知り、応募しました。3年かけて栽培や醸造をしっかりと学べたことはもちろん、地元の人とのつながりを持て、同期やワイン仲間ができたことがとても良かったです。
市のサポートもあり片丘地区に畑を借りて、ブドウ栽培を始めて5年目になります。片丘地区は新しいブドウの産地で、景観も良く、気候や土壌など環境がブドウ栽培に適しているので、栽培する人がもっと増えるよう仲間と一緒に盛り上げていきたいと思っています。今は委託醸造により自畑のブドウでワインを造っていますが、製造免許が取得できれば同期とワイナリーを立ち上げる予定です。普段の食事で気軽に飲めるような地域のブドウで造る「地域還元ワイン」の提供もしたいです。
塩尻市は日本有数のワイン銘醸地。ワインにもっと親しみ、ワイン文化を楽しんでもらえたらうれしいですね。

◆今も生きる、人とのつながり
[第3期卒業生 広瀬 尚克さん(東京都)]
塩尻ワイン大学では、地域と関わる機会に恵まれ、その経験を通して塩尻の魅力を学びました。多くの人に会い、いろいろな所に行き、そばを打ったり農家と交流したり―。
東京都在住の私は、卒業後に塩尻市内の畑を借りてメルロを栽培しています。ブドウ栽培は実が着くのに約3年、良いブドウになるにはさらに数年かかります。私は地元の農家からブドウ畑を引き継いだので、1年目からワイナリーに出荷できました。この畑や指導していただける方と巡り会えたのも、塩尻ワイン大学で得た人とのつながりがきっかけでした。
塩尻市は、ワインの産地として老舗のイメージを持たれるようになってきました。そこで、塩尻ワイン大学卒業生による新興ワイナリーが出てきている「新しい産地」をアピールできると良いですね。大手・老舗・新興ワイナリーのそれぞれに特徴があり、バラエティー豊かな塩尻ワインの魅力を広めることを、今の受講生に期待。私も塩尻市に貢献したいと思っています。

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