■希少動植物調査員からの報告(48)
アサギマダラというチョウがいます。大きさはアゲハチョウほど。翅は茶色と黒のほかに、鱗粉が少ない半透明の部分が大きくあります。その部分が白から浅葱色(あさぎいろ)(薄い水色)に見えることから、この名前が付いています。一度見たら忘れられない美しい蝶です。
このチョウは、長距離を旅(移動)することで知られています。春、西日本などの暖かな地方で生まれた個体が、北方へと移動し、夏は山地などの涼しい樹林帯で暮らし、繁殖します。そして、秋になると再び南下するのです。その移動距離は、なんと2000km以上の記録もあるようです。これには、びっくりです!
そのアサギマダラが、毎年栄村にもやってきます。下のグラフは、村内で2020年から今年の10月中旬までに目撃されたアサギマダラの時期と個体数を示しています。
早い年には、5月中旬には見られるようになります。グラフを見ると5月下旬から6月下旬にかけて、大きな山があることが分かります。きっとこの時期は、北方へ渡る旅の途中の個体が多いのでしょう。
二つ目の山は、7月中旬から8月中旬にかけてです。この頃は、村内でも標高の高い野々海や苗場山麓の樹林帯で多く目撃しています。きっと周辺で繁殖していると思われます。この夏に実施した苗場山頂の調査でも、山頂ヒュッテ周辺でこのチョウを目撃しています。
秋になると、新しく生まれた個体が、暖かい地方を目指して南下するのでしょう。春と秋の移動の時期には、村内でも青倉や小滝など、低標高地でも度々確認されています。
これまで村内での一番遅い記録は、11月3日です。近年の温暖化に伴い、さらに遅くに南下する個体が見られるかもしれません。
毎年春に北上した個体とは、世代の異なる個体が南下するメカニズムは、とても不思議です。無事終着地まで、たどり着けますように!
◆今年も来ました ツマグロヒョウモン!
以前にもこの紙面で紹介したチョウ(広報『さかえ』2020年11月号)です。アゲハチョウを一回り小さくしたくらいの大きさです。もともと西日本が分布の中心でしたが、近年の温暖化などに伴い、分布が北方に拡大しているチョウの一種です。
村内で、2020年の調査開始時の秋から確認しています。今のところ村内での越冬は確認されておらず、毎年秋になると旅をしながら分布を広げてくるようです。
これまで千曲川沿いの集落や山地で見つかっていましたが、今年の秋には、初めて志久見や程久保など東部地域や中央地域でも確認しました。年々分布域が拡大し、個体数も増加傾向にあります。
今年9月、青倉集落内の民家の花畑にこのチョウのオスが数頭来ていました。おうちの方に、このチョウの移動やオスとメスでは翅の模様が大きく違うことなどをお伝えすると、驚いていらっしゃいました。
その翌日、早速広瀬調査員に、その方から家の裏にメスが来ていたと連絡があったそうです。チョウに関心を持ってもらえたことを、とてもうれしく感じました。
生き物の旅(移動)については、まだまだ分からないことだらけです。今後、関心を持ってくださる方が増えていくと、生き物のいろいろな変化がさらに見えてくると思います。
(栄村希少動植物調査員・涌井泰二)
▽村内におけるアサギマダラの目撃時期と個体数(2020~2024年)
※2024年は10月中旬までの記録
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