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繁殖木を初確認! チョウとアリのふしぎな関係 !!

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長野県栄村

■希少動植物調査員からの報告(44)

皆さんはお子さんに、「チョウの幼虫は何を食べて育つの?」と聞かれたらどう答えますか?恐らく、「草や木の葉っぱ」と、答えるでしょう。そうなんです。ほとんどのチョウの幼虫は、植物を食べて育つのです。ところが、チョウの世界にも変わり者がいるようです。なんと幼虫時代にアブラムシなどを食べて育つチョウの仲間がいるのです。
村内でも、その仲間のチョウが見つかっています。ムモンアカシジミもその一種です。翅を広げても4cmほどの小さなシジミチョウの仲間です。翅の表も裏も鮮やかなオレンジ色なので、緑の木々の間ではよく目立ちます。生息地が極めて限られるため、長野県では準絶滅危惧の希少種になっています。

◆アリに守られて餌をとる幼虫
実はこのチョウの幼虫は、はじめはミズナラやコナラなどの若葉を食べますが、大きくなってくるとクサアリ類という特定のアリに守ってもらいながらアブラムシなどを食べる半肉食性なのです。
昨年までの4年間の調査で、このチョウを見つけた場所は、村内では中央地区で2か所、秋山地区で1か所の3か所のみです。そのうち、毎年複数の個体を確認できる場所がありました。ある大きなミズナラの木の周辺です。
そこで今年5月の調査では、その木の周りを丁寧に探してみました。すると、そのミズナラの根元にアリの巣があり、おびただしい数のアリたちが、その木に列をなして登っていました。
一部を採取して、持ち帰って顕微鏡で調べたところ、なんとそのアリは、クサアリ類の一種であるクロクサアリであることが分かりました。間違いなくそのミズナラで、ムモンアカシジミはクロクサアリに守られながら毎年発生していたのです。
このチョウが、これからも村内で生きていくためには、ミズナラやコナラなどの食樹と共に、アブラムシ、そしてクサアリ類という特定のアリの存在が必須条件なのです。

◆つながり合う命の連鎖をまるごと!
他にも村内では、さらに希少種のクロシジミ(環境省・長野県ともに絶滅危惧IB類)が見つかっています。チョウマニアにとっては、憧れのチョウです。
このチョウの幼虫は、小さい時期はアブラムシが出す甘露をなめ、少し大きくなると、クロオオアリによって巣に運ばれ、そこでアリから餌をもらいながら、巣の中で成長するのです。
このチョウの場合も、アブラムシとクロオオアリがいる環境がないと生きていけません。生き物同士のふしぎなつながりに驚くばかりです。まさにつながり合う命の連鎖です。
これまでの調査で村内では117種のチョウ類(長野県確認種の約80%)、72種のトンボ類(同約75%)が確認されています。一つの村でこれだけ多くの種類のチョウやトンボが棲んでいるのです。
そのことは、とりもなおさずこの地域に、動植物の豊かな命のつながりの連鎖が今もあることを意味します。私たちは、今ある自然環境を誇りにして、まるごと大切に守り、維持していくことが重要です。
ちょうどこれから、ムモンアカシジミが舞う時期となります。いつまでもこのチョウが暮らせる栄村であることを願ってやみません。

(栄村希少動植物調査員・涌井泰二)

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