遺跡を発掘すると、昔の人たちが使った土器が出土します。奈良時代以降の土器には、まれに文字や記号などが書かれたものがあります。先端の鋭い工具を用いて、文字や記号などを刻んだ「刻書土器」、墨・筆を用いた「墨書土器」です。また土器に絵を描いたものを「墨画土器」と呼ぶこともあります。では昔の人たちは、どうして墨で土器に文字などを書いたのでしょうか。
いくつか理由が考えられますが、まず土器を使う人や、土器の所属や使用目的・内容物を示すためと考えられます。他者の使用防止や、備品として管理するためだったのでしょう。人名や役職、土器の管理組織・建物名などが書かれています。
二つ目の理由として、宗教的な祭儀・まじないのためと考えられます。「吉祥句(縁起の良い言葉)」や、厄除けの印と思われる記号が書かれたものがそれです。出土例は少ないのですが、疫病神と思われるひげ面の人物の顔が描かれた土器もあります。現在、私たちの生活の中では、「うつわ」に字を書く機会は無いのではないでしょうか。
伊豆の国市中に所在する坂本遺跡では、奈良〜平安時代の墨書土器がいくつか出土しており、その出土点数は市内でも多い遺跡です。左図はこの遺跡から出土した墨書土器で、土器の底部外面に「主」、もうひとつは「久」とも読むことができます。
両者とも底部の外面に墨で書かれています。「主」と書かれた土器は、ほぼ完全な形です。筆に墨をしっかりふくませて書いたため、千年以上前の土器にもかかわらず、筆の運びを観察することができました。「久」と書かれた土器は底部のみの破片です。「久」の三画目は、異常に長い払いとなっています。うっかり筆がすべってしまったのか、それともわざとなのかは分かりません。両者ともまじない用に使われたものと考えられます。
こうした墨書土器は、使用した人々のさまざまなニーズを反映したものですが、その前提として字を書く人・理解する人の存在が欠かせません。墨書土器が出土する遺跡は、文字を読み書きできる人がいる、地域の中核的な集落であったと考えられます。墨書土器は奈良〜平安時代の伊豆国田方郡の様子をうかがい知る上で、貴重な資料と言えるでしょう。
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