日々の生活の安全・安心を願う気持ちは、今も昔も変わりません。未曾有の災害が続く昨今では、その気持ちがいっそう強くなっているのではないでしょうか。日本では、昔からさまざまな行為や形で、生活の安全を神や仏に祈ってきました。そのいくつかをご紹介しましょう。
写真1は、史跡北条氏邸跡(円成寺跡)から出土した石製のお札です。表に「天神」、裏に「御□(守?)」と刻まれているので、いずれかの天神社に祈願したお守りなのでしょう。年代は、中世後期から江戸時代初め頃と思われます。
写真2は、江川邸(重要文化財江川家住宅)の蔵や鎮守社を修復した際に出土した、アワビ・サザエ・カキの貝殻です。特に鎮守社では、床下の2.5×1mの範囲に砂利敷が見つかり、砂利の中や周辺から貝殻のほか、かわらけ(素焼きの皿)や伊万里(いまり)焼の茶碗、銭貨(寛永通宝(かんえいつうほう))が出土しています。これは、建物を建てる前に、工事や建物の安全を願う祭祀、いわゆる地鎮祭が行われた跡と考えられます。
現在も新築の際には地鎮祭を行うことが多いですが、江川邸で見つかった出土例から、江戸時代の祭祀の状況を具体的に知ることができます。
最後に、私たちの身近な祭祀の一例として、韮山地区南條の「荒神(こうじん)さん」(荒神社・竈(かまど)神社)を取り上げます。「火産霊命(ほむすびのみこと)」・「奥津彦命(おくつひこのみこと)」・「奥津姫命(おくつひめのみこと)」の三宝荒神を祀る荒神さんは、火災を防ぐ「火伏(ひぶせ)の神」として広く信仰されており、1月28日・29日の祭礼の日に、お札と「スミンチョ」と呼ばれるお守りが配られます。現在は、お札や「スミンチョ」を台所などに祀り、火事が起きない、起こさないお守りとしていますが、かつては竈の脇やいろりの自在かぎに吊るしていました。
私たちは、災害から身を守るために、日々、さまざまな備えをしていますが、家内安全を神仏に祈る想いは、昔と変わらず続いていくでしょう。
*現在、市役所伊豆長岡庁舎1階ロビーにて、広報2月号・3月号で紹介した資料を展示しています。ぜひご覧下さい。
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