■唾液の力
◇今月のドクター
指宿市歯科医師会
濱田 靖子(はまだやすこ)(※)
2019年から突如出現した新型コロナウイルスにより、世界中で多くの人が命を落としたり、重症化したりして苦しんできました。現在ではワクチン接種が世界中に広まり、中でも日本は世界でも類を見ない程の感染者の減少と死亡者の抑制をしてきました。このワクチンがない間、最も基本的な予防手段として世界中の人が取り入れるようになったのが「マスク」です。これにより、次々と起こる流行の波を乗り越え、「世界総マスク時代」となりました。
もう一つ身近なものでは、口の中を常に潤している「唾液」の存在があります。「唾液」には自浄作用や消化を助けるなどさまざまな作用がありますが、中でもすごいのが免疫作用で、ウイルスと戦う作用が備わっているのです。
我々の体は常にウイルスや細菌などの病原体にさらされています。中でも接触が多いのが粘膜です。角質に守られていない粘膜からは病原体が侵入しやすく、いったん入ってしまうと体内で増殖してさまざまな悪さをします。大切なのは「病原体をいかに体内に入れないか」と「入ってしまった病原体とどう戦うか」なのですが、粘膜にはこの病原体の侵入を防ぐシステムが備わっているのです。
粘膜の表面には体を守る抗菌物質がたくさん分泌されています。その中で最も頼もしいのが「IgA(免疫グロブリンA)」という免疫物質で、他にもIgG、IgMなどの免疫物質がありますが、唾液中ではIgAが一番多く分泌されています。このIgAという免疫物質はウイルスなどの異物を見つけるとそれにくっつき、取り囲んで口の中の粘膜に付着しないようにし、唾液で洗い流してくれます。またIgAは未知のウイルス(今回の新型コロナウイルスのようなもの)に対しても積極的に戦うのです。つまりIgAは唾液腺から分泌されますが、唾液中のIgA濃度が高ければ高いほど、また、唾液の量が多ければ多いほど、ウイルスをやっつける力が強いということになります。
これらの免疫物質はワクチンや薬と違い、血液と同じように自分の体から作り出されている「天然の防御策」「自前の薬」なのです。このことから、よくかむこと、ポカンと口を開けないこと、口を閉じて鼻で息をすること、口をよく動かすなどして唾液をたくさん出すことが重要となります。また、毎日の歯みがきやうがいなどの口腔(こうくう)ケアで口の中のウイルスや細菌を取り除き、その量を減らして清潔に保つことも必要です。
現在ではコロナウイルスは5類へと引き下げられましたが、なくなったわけではありません。さらに今年の夏はインフルエンザも流行しました。そのために、これからも唾液の免疫力(IgA)でウイルスと戦い、一人一人が気を付け、自分の健康を保っていきましょう。
問合せ:指宿市歯科医師会
【電話】23-2920
※医師名「濱田」の「濱」は環境依存文字のため、置き換えています。正式表記は本紙をご覧ください。
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