■4月から相続登記が義務化に。
今回は、相続登記に関連する制度の概要や相続登記の必要性などを紹介します。
不動産登記とは、土地・建物の所有者や権利関係などを記録し、権利の保全や不動産取引を安全・円滑に行うための制度です。登記事項を記録する登記簿を扱うのは法務局。申請によって登記簿上の所有者を変更したり、建物を取り壊した際に滅失登記したりといった手続きができます。
鹿児島地方法務局霧島支局 登記部門統括登記官
森 俊介さん(51)
◇3年以内の手続きを
相続登記の義務化により、相続で不動産を取得したことを知った日から3年以内に、不動産登記簿の名義人を相続人に変更する手続きが必要になります。正当な理由がなく申請しない人には、10万円以下の過料が課せられることも。「4月より前に名義人が死亡し、そのままになっている土地・建物も対象で、その場合は令和9年3月までの手続きが必要です。必要書類が多く、審査や手続きに時間がかかるので、司法書士などに早めに相談してほしい」と勧めるのは、鹿児島地方法務局霧島支局登記部門統括登記官の森俊介さん(51)です。
◇義務化の背景
相続登記が義務化された理由の一つに、全国で※所有者不明土地が増え続けていることが挙げられます。その面積は九州本土を上回るとまでいわれており、対策として、これまで任意だった相続登記が義務化されることに。「登記簿を見ても、現在の所有者やその所在が分からない土地が増えると同時に、適切に管理されない土地・建物が増えました。これが周辺環境の悪化や民間取引・公共事業の阻害を招いています」と森さんは表情を曇らせます。
「誰の資産なのかが明確になることで、買いたい人がいれば連絡を取りやすくなり、公共事業などでも活用しやすくなります。自分の持ち物に名前を書くのと同じように、所有者が変わったら名義人を変える。これにより社会全体のコストカットにつながるはずです」
◇土地の活用が難しい人は
親元を離れて遠方で暮らしているなどの理由で、不動産の管理や活用が難しいと考える人は少なくありません。売却できれば管理の必要がなくなりますが、買い手が見つからないことも多々あります。
昨年4月から始まった、相続土地国庫帰属制度。一定の要件がありますが、相続や遺贈で取得した土地を国庫に納められる制度です。森さんは「管理ができずに荒地にするくらいなら、この制度を活用するのも一つの手段です。手数料や10年分の管理費用などの負担と引き換えに、負の遺産になり得る土地を国庫に納められるので、覚えておいて損はありません」と話し「早期の遺産分割が難しいときのために、4月から相続人申告登記という制度も始まります。簡便な手続きなので、遺産分割協議がまとまる気配がない、相続から長年放置していたため大変な時間を要するといった場合に活用してください」と続けます。
◇誰に相続させるのか意思表示を
「相続登記を進める前に、誰にどの財産を相続させるかを記した遺言書があるかないかで、手続きの煩雑さに大きな差が出ます」と力を込める森さん。遺言書があれば遺産分割協議の手間が省け、相続人全員の同意の印鑑が不要になるなど、相続人の負担を減らすことができます。法務局では令和2年から、自筆証書遺言書保管制度が始まりました。
法務局が遺言書を預かるだけでなく、死亡時には指定した人に、遺言書を保管していることを通知します。「相続人は、故人の死亡に伴う手続きだけでもかなりの労力が必要です。ましてや財産のこととなると、親しい間柄でも話しづらいもの。少しでも相続人の負担を軽くするために、遺言書の作成が役に立ちます。ぜひ、多くの人にこの制度を活用してほしい」と期待を込めます。
※不動産登記簿を確認しても所有者が直ちに判明しないか、所有者の所在が分からない土地。
■相続土地国庫帰属制度
相続や遺贈によって所有権を取得した土地を、一定の要件の下、国庫に納められます。
・申請できない土地=建物がある、他人が使用する権利が付いている、未解決の境界争いがあるなど、管理・処分に当たり過分な費用・労力が必要なもの
・申請費用=審査手数料、10年分の管理費に相当する負担金(基本額20万円。面積単位で算定する場合あり)
問合せ:鹿児島地方法務局不動産登記部門
【電話】099-219-2114
■自筆証書遺言書保管制度
全国の法務局で、自筆の遺言書を預かります。同制度を活用した遺言書は、家庭裁判所での(※)検認が不要です。
手続きは本人が出向いて申請する必要があり、遺言の内容に関する相談はできません。預けた後も、閲覧や保管の撤回、差し替えができます。
・手数料…3,900円(収入印紙で納付)
・必要な物…自筆証書遺言として保管する遺言書、申請書(法務局で配布。法務省ホームページからもダウンロード可)、本籍が分かる書類(住民票など)、本人確認書類
※法務省ホームページはこちら(本紙PDF版3ページ参照)
(※)相続人に遺言書の存在と内容を知らせ、遺言書の内容を明確にし、偽造・変造を防止する手続き。
問合せ:鹿児島地方法務局霧島支局総務課
【電話】45-0064
■登記がない建物は市の税務課に届け出を
課税の公平性の観点から、登記の有無に関わらず、要件を満たす建物は固定資産税の対象です。登記がない建物の滅失や所有者の変更届け出は、市税務課に相談ください。
問合せ:税務課
【電話】64-0885
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○登記相談窓口の利用で不安が軽減
有村 多恵子さん(59)隼人町在住
亡き父名義の土地があるため早めに手続きをと思い、法務局の登記相談窓口を利用しました。山や田畑など活用が難しいものもありますが、大切な財産。兄弟と話をする中で一部を国に寄付しようという案もあり、登記手続きの流れや必要書類だけでなく、制度の詳細な説明が聞けて助かりました。複雑な手続きに不安もありますが、相談窓口などを活用しながら進めていこうと思います。
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