■ギターに魅せられて
永野 恵介さん(39)
岐阜県出身。市内で活動するバンド「Sally The Husky(サリーザハスキー)」のギタリストとしての顔も持つ。国分在住。
◎屋号の「ミラージュ(蜃気楼(しんきろう))」はいろいろなまちに移り住んだ永野さん自身を、「リーフ」は市の特産品であるお茶と、タバコの葉を表している
オーダーメードでギターやベースの製作や修理を行う工房・Mirage Leaf Craftworks(ミラージュリーフクラフトワークス)。丁寧な仕事ぶりが評判を呼び、県外までファンを増やしている同工房の代表を務めるのが、永野恵介さん(39)です。音楽が好きで中学生の時にギターを弾き始めましたが、のめり込んでいったのは演奏ではなく、ギターそのものでした。
高校を卒業すると、ギターメーカーが運営する大阪の専門学校に入学。※新聞奨学生として仕事と勉強に追われる多忙な毎日を送った永野さんは「朝夕は新聞配達、昼間はギター製作の勉強と、遊ぶ時間はあまりありませんでした。ほかの学生には負けたくないという気持ちで、2年間やり遂げました。もう一度同じことをやれと言われても無理ですね」と笑って話します。
努力が実を結び、卒業と同時に親会社のギターメーカーに採用。長野県の工場で、念願だったギター職人の道を歩み始めた永野さんでしたが、リーマンショックの影響で工場が閉鎖されることになり、家族の都合などもあってやむなく退職します。
その後、愛知県の自動車部品メーカーで働いていた永野さんに転機が訪れたのは平成30年のこと。「霧島市出身の妻から地元に帰りたいと言われて。妻や親兄弟、妻の両親とも話し合って、令和元年10月に移住しました。妻の両親の優しい人柄や霧島の自然、文化、食べ物のおいしさなども決め手になりました」と振り返ります。当初は会社勤めも考えた永野さんでしたが、一念発起し妻の両親が所有する空き家で、長年の夢だった自分のギター工房を開くことに。「需要があるのかという心配もありましたが、コロナ下で家に眠っていたギターを修理して楽しもうという人が結構いたり、ケーブルテレビで取り上げてもらったりしたことがきっかけで、一気に仕事が増えましたね」と永野さんは続けます。
製作は全て手作業のため、1本のギターに3カ月から半年ほど時間を費やす根気のいる仕事。「デザインや音の好み、弾いた時の感触などお客さまの要望はさまざまで、打ち合わせを重ねながら何もない状態から形にしていきます。妥協せずにお客さまの要望にいかに応えられるかというところに難しさとやりがいを感じられて、出来上がった時の達成感はひとしお。修理の依頼も多く、楽器のお医者さんみたいな面もありますね」と話す永野さんの顔からは、自信と充実感がうかがえます。
「今後の目標は二つ。一つはギターのメンテナンスセミナーを開催することで、自分の技術を広く伝えたいと思います。もう一つは、お世話になっている霧島市で採れた材料や、県の伝統工芸である薩摩弓の技術を生かしたギター作りに挑戦してみたい。ふるさと納税などでも貢献できないかな」と話す永野さんの瞳には、ギターに対する愛があふれています。
※新聞社による奨学金制度。利用する学生は在学中、新聞配達業務などを行う。
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