- 発行日 :
- 自治体名 : 北海道中札内村
- 広報紙名 : 広報なかさつない 令和7年10月号
■二つの裁判に思う、村の「景観政策」の未来。
私たちは中札内村の美しい農村景観に囲まれて暮らし、その恩恵を享受しています。このように良好な景観によって得られる利益と権利のことを、「景観利益」といいます。過去にはこの景観利益を巡り裁判になった事例がありますのでご紹介します。
一つ目は「日光太郎杉事件」です。日光東照宮の入口にそびえる巨木(通称・太郎杉)を、道路拡張のために伐採する計画が持ち上がりました。それを不服とした東照宮が取消を求めて訴訟を起こしたのです。結果、宇都宮地裁、東京高裁ともに原告の訴えを認め、太郎杉はその姿を残すこととなりました。
判決の際には、太郎杉が日光国立公園の玄関口にある象徴的な存在であり、文化的価値が非常に高いこと、また、道路拡幅にともなう交通量の増加や周囲環境の悪化が懸念されることなどが理由とされました。地域の景観利益が優先された代表的な事例です。しかしここで注意したいのは、もしこれが変哲もない場所にある大木だったとしたら、このような判決は出ていないだろうということです。
太郎杉の場合は周辺地域の状況が特殊であり、広く認知されていたことがこの結果につながっているのです。
二つ目は「赤白ストライプハウス事件」です。赤と白の縞模様の外壁を持つ家屋が、周辺住民の景観利益を侵害するものとして、撤去などが求められた裁判です。本件は最終的に原告の請求が棄却され、この家屋が景観利益の侵害とまではいえないと判断されました。
判決理由として、外壁の色彩に法的規制や住民の取り決めがないことや、他にも様々な色彩の建物がこの地域に存在していることなどをあげています。景観について法的な根拠や規制がなかったために、原告の主張を認めることが難しかったのです。
さて、本村が現在策定を進めている景観計画では、景観上重要な建築物や樹木を指定することができます。また、重要な景観資源の保護や新たな建築物の色彩等を制限することも可能です。先ほどの事例のような争いを全て解決することはできないとしても、本計画が村の考え方を示すものとして重要であることは間違いありません。
本村の景観政策の新たなステージへ向け、皆様のご意見をいただきながら計画を策定していきます。
*美しい村連合通信は今回で連載を終了します。
