文化 歴史の風 [連載160]

■収蔵庫の宝物 職員のイチオシ資料紹介
□瓦鉢(がはつ)
鉢は仏教において、僧侶の持ち物や仏へのお供えとして使われる器です。材質により鉄鉢(てっぱつ)石鉢・木鉢・瓦鉢などがあります。このうち、土器で作られた鉢のことを「瓦鉢」と呼びます。
写真(本紙27ページ)の瓦鉢は、市川橋遺跡伏石地区で発見された平安時代の井戸跡から出土しました。この地区では、ほかにも木製の仏像破片など、仏教関連遺物が多数出土しています。
瓦鉢の表面には、2行にわたって墨で文字が書かれています。発掘調査を行った直後には、一部分のみしか解読ができませんでしたが、その後に行われた国立歴史民俗博物館の三上教授による調査で、「仏殿」という文字が発見されました。
「仏殿」と書かれたものが発見されると、あたかも付近に東大寺のような大寺院があったのかと思われますが、付近で発見される建物の構造は、多賀城周辺で見つかる役人の住まいとほとんど変わりません。
土器に墨で文字を書くという行為は、むしろ呪術的な意味合いが強いことが指摘されており、役人の住まいを「仏殿」に見立てて、仏教儀礼を行った可能性があります。
発見された仏像破片についても、寺院などに残された古代の仏像に比べると大変小さく、特殊な事例と言えます。
平安京の貴族邸宅で行われたような仏教儀礼が、多賀城周辺における役人の住まいでも行われていたのでしょうか。
多賀城市内の地下には、過去の歴史を物語るさまざまな資料が眠っており、一つ一つの調査成果の積み重ねから、地域の歴史が明らかにされてきています。

*紹介した資料は、12月末まで埋蔵文化財調査センター展示室で見ることができます。

問合せ:埋蔵文化財調査センター
【電話】368-0134