文化 「躍」佐野健一さん

丹精込めたひと手間の結晶
地域をつなぐ種から育てた芸術品

佐野健一(さのけんいち)さん

≪プロフィール≫
市内在住のひょうたん作家。堀兼地区で農家を営む。全日本愛瓢(あいひょう)会の会員で、埼玉県支部に入会し展示会などへ出品している。

今年6月に福井県で開催された「第50回全日本愛瓢会展示会」で、堀兼地区在住の佐野健一さんのひょうたんが文部科学大臣賞を受賞。同作品は堀兼公民館の市民文化祭に展示され、佐野さん本人が来場者へ説明を行いました。
広報さやまでも、作品へ込めた思いなどを伺いました。「研(と)ぎ出しとすみ流しという技法を使った2つのひょうたんで受賞しました。今まで作った中でも一番立派なひょうたんです」
本業は農家のため、普段は農作業の合間を見てひょうたん作りに取り組んでいるそうです。「種まきから完成までには時間がかかります。今回の作品も約1年かけて完成させました」
2月頃に種をまき、実が大きくなったら収穫して2週間ほど水に漬け、中身を腐らせます。そうすることで中身を出しやすくし、先端に開けた穴から道具を使ってかき出す作業を何度も繰り返すそうです。その後、あく抜きのために再び数日間水に漬け、乾燥させてから絵付けをします。「作品の研ぎ出しは、塗りを40回程重ねています。金色と紅留(べにとめ)という塗料を交互に、下の方には重厚感を出すために黒色も重ねて塗りました。柄を出すために後から紙やすりで削るので、塗装が薄いと地の色が見えてしまうんです。回数を多く塗ることで、この風合いが出せるようになります」
仕上げにニスを塗ったり、紐を結ったりしてようやく完成となります。
「紐の結い方は調べて覚えたものにアレンジを加え、作品ごとに変えています。今回は真封(まふう)じという結びを用いました。」
佐野さんがひょうたん作りを始めたのはおよそ25年前。きっかけは、当時の堀兼公民館長から苗を譲ってもらったことだったと言います。
「館長が地域の人に苗を配ってくれました。それで堀兼のひょうたん作りが始まったんです。その時の苗は、大(おお)ひょうと長(ちょう)ひょうという品種でした」
それから、どんどんひょうたん作品の創作に取り組んでいった佐野さん。今回受賞した作品は太長(ふとなが)ひょうという品種です。「今では地域のひょうたん作家も徐々に増えて、展示会もにぎやかになってきました」
趣味でひょうたん作りをしていた佐野さんが、本格的に作品を展示会に出すようになったのは、全日本愛瓢会の会員になってからのことです。
「初めは賞を取ることを目的にして作品を作っていませんでした。続けていたら、褒めてもらえることが多くなりました」
文部科学大臣賞の受賞も、電話で連絡を受けただけでは信じられず、会場に飾られているのを目にしてからようやく実感が湧いたと言います。
「この作品に色を塗り終えたのは昨年の年末。元日の朝、乾かすために置いていたひょうたんが初日の出の赤い光に照らされているのを見て、とても神々しく感じました。これは何か良いことが起こるかもしれないと思ったんです」
今後も創作活動を楽しみながら堀兼のひょうたん作りを盛り上げていきたいと話す佐野さん。
公民館などではひょうたん作品の講座を開催しています。皆さんもぜひ参加してみてください。