くらし 【特集】農家民泊はじめました

昭和30年代に建てられた古民家を改修した宿泊施設が昨年、姫宮にオープンしました。この場所にどんな可能性を感じてのことだったのか。実際に宿泊したのはどんな皆さんだったのか、紹介します。

■空き家を宿泊所にしたら?
「古民家の宿 奈味(なみ)」は姫宮神社のすぐそばにあります。昭和30年代に建てられた平屋の建物は、敷地の庭木に囲まれています。
建物は、家主である並木さんのご両親が亡くなってから空き家になっていましたが、「ぜひ使わせて欲しい」という声もあったことから、その時々に町民有志が主催するイベントなどに貸し出すことがありました。
並木さん自身も、普段から敷地内にある加工場で農産品をつくり「新しい村」などに出荷している縁もあり、ここで開催される「農」に関連した体験講座などでは講師となることがありました。
4年前、敷地内の栗畑でそんな関係者が集まってバーベキューパーティーを開催した時「母屋を宿泊場所にしたら」という提案が日本工業大学の佐々木教授からありました。賛同する声も多く、いつしか「やってみようか」という機運になりました。並木さん自身にとっても自然な流れでした。
大学の学生たちが古くなった内壁に珪藻土(けいそうど)を塗り、五右衛門風呂を設置しました。完成後は、住宅宿泊事業(農家民泊)として埼玉県へも登録しました。

■まるでジブリの映画だね
昨年7月、「古民家の宿 奈味」は第1号のお客さんを迎えました。宿泊のコーディネートは建物の改修時から関わっていた川端に住む木村さん夫妻。2人とも元旅行業です。以前から並木さんと面識があり、この場所での宿泊事業に可能性を感じていました。
2人は予約受付から当日の手配までを担当します。試行錯誤もありましたが、1日1組限定、自炊が原則、古民家をまるごと一軒利用できる宿泊形態としました。
それから1年、「めったにできない体験ができる宿泊施設」の人気は口コミでじわじわと広がり、宿泊する人も増えました。今年7月から9月の週末は、ほぼ予約が埋まるほどになっています。
町内に住む斉藤さんは、江東区に住む友だち2家族と一緒に東武動物公園の「東武スーパープール」で遊んだ後、宿泊しました。子どもたちはヤギにエサをあげたり、栗を拾ったり、家の中を「探検」したり、大いに楽しみました。夜は、買い出しに出かけ、手巻き寿司の夕食だったそうです。
五右衛門風呂や梁(はり)の見える天井など、「ジブリの映画の世界みたい」と感動します。お母さん同士も夜遅くまで尽きることなく語り合えた、と満足げです。

■宿泊者は関東一円から
「ホテルのような接待はできないけれども、家一軒、自分たちが思ったように、自由に使えることが魅力です」と木村さん夫妻は話します。今までの宿泊者は、同級生や会社仲間、この建物に魅せられた趣味のグループ、宮代町への帰省時に利用する家族など。関東一円からやってきます。
並木さんは宿泊者のために、敷地前に広がる畑で野菜を栽培します。夏はナス、きゅうり、トマト、唐辛子、ゴーヤなどです。時期によりますが、宿泊する皆さんが「わいわい」楽しみながら収穫することが可能です。宿泊者は宿のキッチンで調理に使ったり、お土産に持ち帰ったりします。
この宿泊施設は農業を営む並木さんの日常生活とともにあります。
玄関前の庭にひろげられた収穫物。「これ、何の豆ですか」とたずねる宿泊者に、並木さんは「赤飯に使うササゲ豆を天日で干している」と説明します。興味がわいて、サヤから豆をとる作業を体験した宿泊者もいました。「夢中になってやってましたよ」並木さんは笑います。

宮代は山や海があるような観光地ではありません。しかし、この古民家にいると、かつてはどこにでもあった「農」が身近にある暮らしを感じます。宮代の大切な魅力の一つなのだと教えられた気がしました。