スポーツ 厚木から羽ばたく 熱気人(1)

このまちで、個性や特徴を生かし、夢に向かって歩み続ける「熱気人」たち。競技や芸術に思いを注ぎ、たゆまぬ努力を重ねる姿は、明るい未来を映し出している。

■大田 拓真(26)
格闘家 ムエタイ選手
憧れたリングで夢をつかむ

プロフィル:1999年生まれ。南毛利小・中学校出身。新興ムエタイジム(中町)に所属。右ミドルキックを得意とするムエタイ選手。「WBCムエタイ世界フェザー級王座」をはじめ、「NJKFフェザー級王座」など数々のタイトルを獲得。現在、「ONEチャンピオンシップ」に出場するなど世界の舞台で活躍中。戦歴は44戦33勝(10KO)。

リズムを刻むようにステップを踏み、相手との間合いを静かに探る。目にも止まらぬスピードで繰り出されるキックやパンチが、漂う緊張感を切り裂き、衝撃音を響かせる。金色に輝くベルトを掲げるのは、格闘家の大田拓真さん。昨年、後楽園ホールで開かれたタイトルマッチを制したWBC(世界ボクシング評議会)のムエタイ世界フェザー級チャンピオンだ。

▽悔しさを力に
幼い頃から正義のヒーローに憧れ、戦いごっこが好きだった。競技を始めたのは小学5年生の時、格闘技が好きな父と一緒にテレビで試合を見たことがきっかけだった。「リングの上で戦う姿がかっこいい」と心を打たれ、挑戦したいと父に頼んだが許されなかった。熱意を何度も伝えるうちに「やるなら中途半端ではなく、しっかりやりなさい」と背中を押され、自宅近くのムエタイのジムに通い始めた。
ジムでは週2回の練習からスタート。攻撃が痛くて泣いたこともあったが、頼み込むほどやりたかった格闘技に辛さは感じなかった。初めてリングに上がったのは競技を始めて3カ月の頃だ。試合は、同年代の女の子にボコボコに殴られて惨敗。「とにかく悔しくて、もっと強くなりたかった」と、練習を週6回に増やし、さらに真剣に取り組むようになった。

▽見つめ直しさらなる高みへ
闘争心に火が付いた大田さんは、サンドバッグやミット打ち、スパーリングなどの練習にひた向きに打ち込んだ。自宅でもトレーニングを重ねると、6年生で初めてタイトルを獲得。「世界チャンピオンになりたい」。いつしか心の中に大きな夢が芽生えていた。日々の練習に加え、夏休みにはムエタイの本場・タイでの修行を敢行。精神と技術を磨き、大会で実戦経験も積んだ。努力が実を結び、高校1年生でテストに合格。プロの世界に飛び込んだ。
順調な格闘技人生を歩んできたが、この頃、プロとしての意識を自覚できず、競技に真剣に向き合えていない自分がいた。「遊びたい気持ちが強くなり、練習に身が入らなかった」とベルトを懸けた試合で敗戦し、辞めることも考えたが、「逃げたら今までの努力が無駄になる。父からも一喝を受け、気合が入った」。陰で支えてくれた父の存在で目を覚ました大田さんは、高校卒業後に見事にリベンジを果たした。

▽夢の続きに向かって
「強い相手と戦えることに、わくわくした」。昨年6月、勝ち星を重ねてつかみ取った世界チャンピオンへの挑戦権。試合前の1カ月間にわたる厳しい追い込み練習を乗り越え、ひとときも努力を惜しまなかった大田さんは自信に満ちていた。第3ラウンド、強烈なキックが相手の腹部を捉えた。見事なKO勝利に「幼い頃からの夢がかなった瞬間だった」と笑顔を見せる。
チャンピオンベルトを手にし、周りの人も自分のことのように喜んでくれた。それでも、「ここがゴールではなく通過点」と力を込める。「この座を守り、さらに強い相手が集まる大きな舞台で勝負がしたい」。格闘技に人生を懸けるファイターは、強豪がひしめく新たな戦いのゴングの瞬間を待っている。