- 発行日 :
- 自治体名 : 石川県津幡町
- 広報紙名 : 広報つばた 2025年6月号
■地域で暮らす認知症を考える
看護師認知症ケア専門士 森有希
我が国では高齢化の進展とともに、認知症と診断される人も増加しています。65歳以上の高齢者を対象にした令和4年度の調査では、認知症の人の割合は約12%、認知症の前段階とされる軽度認知障害(MCI)の人の割合は約16%で、合わせると3人に1人が認知機能にかかわる症状があることになります。つまり、認知症は誰にでも起こり得るものであり、私たち一人ひとりが「我がこと」として理解していく必要があるといえます。
認知症になることは、必ずしも「失うこと」ばかりではありません。認知症と向き合いながら生きることは、さまざまな挑戦を伴うかもしれません。しかし、その中でもその人に合った希望や工夫を見つけることができれば、「安心感」を持って安定した生活を送ることができます。認知症の人が「自分らしく生きる」ためには、できるだけ自立を支援することが大切です。周囲の人は認知症の人の変化を見守りながら、その人が自分でできることを維持できるようにサポートしましょう。自分でできる範囲を広げていくことができれば、自己肯定感が高まり、生活の質の向上にもつながります。
また、見る、聴く、さわるなどの感覚的な心地よい体験は、認知症の症状緩和に役立つことがあります。例えば、昔好きだった音楽やアート、なじみのある散歩道、植物の世話、お気に入りの香りなどは安心感や喜びを得ることができます。こうした活動を通じて、自分自身の感情を表現することができると同時に、他者とのコミュニケーションが深まることもあります。
認知症の人は過去の記憶を失ったり、時間の流れが分からなくなることもありますが、それを否定するのではなく、今を大切にする姿勢や、感情や体験に寄り添ったサポートが大切です。「認知症を生きる」ということは、過去に縛られず、今を生きる力を育てることだといえます。
認知症の人・家族にとって社会とのつながりは、認知機能の維持や精神的な健康を保つために重要です。高齢社会の今日では、地域包括支援センターを中心に、医療、福祉、介護、生活支援、行政などの各機関が連携し、支えるネットワークが整ってきています。
「地域全体で認知症を理解する」ということは、認知症の人が住み慣れた地域で自分らしく安心して生活できる環境を作るための重要なステップだといえます。