- 発行日 :
- 自治体名 : 京都府伊根町
- 広報紙名 : 広報伊根 2025年11月号(第652号)
■「令和を生きる子どもたち」
伊根小学校 通級指導教室担当 長島弘晃
みなさんは、よく使う電話番号をどれくらいの数、覚えていますか?今は、スマートフォン等に記憶された電話番号をワンタップするだけで、電話がかけられます。電話口に誰が出るかを想像しながら電話をかけるということも減ってきました。
ご家庭のお風呂の支度は、どのようにされていますか?湯船に水を張っているのを覚えていながら、ボイラーで湯沸かしをしているのを覚えていながら、家事や用事をするといったことも減ってきたのではないでしょうか。スイッチひとつで自動的にお湯張りができてしまいます。
ご家庭で、テレビのチャンネル権争いをすることは、ありますか?家族の誰かがテレビを占有すると、他の家族は観たいテレビ番組が観られずに、我慢しないといけない…ということも減ってきたのではないでしょうか。家族それぞれが、スマートフォン、タブレット端末、ゲーム機といった自分用のデバイスを持ち、それぞれに好きなタイミングで好きなコンテンツを視聴する時代になりました。
紹介したのは、ほんの一例ですが、技術や生活様式の変化・進化により、私たちの生活はとても便利になりました。それによって、一度にたくさんのことがこなせるようになったり、時間を短縮したりできるようになりました。昭和後半生まれの私も、だんだん便利になっていく生活の変化を経験してきました。
現代の生活を子どもの視点で見ると、すでに便利な生活になった時代に生まれ、生まれたときからスマートフォンが身近にある「デジタルネイティブ世代」とも呼ばれています。電話番号を「覚える」こと、お湯張りや湯沸かしを忘れないように用事を「同時進行」すること、テレビのチャンネル権争い等で「我慢する」ことを経験することがほとんどありません。便利な生活の裏で、「記憶力」を鍛える機会、「我慢強さ」を育む機会が乏しくなっています。一方で、学校では漢字や計算等の勉強に加え、当番活動の日、タブレット端末の使い方等、たくさんのことを覚えなければなりません。チャイムで区切られる構造化された生活、好き嫌いを問わず学ぶ教科、友達との折り合いを優先する集団生活等、いろいろな場面で我慢することが求められます。子どもたちの「育ち」と「学校」とのギャップが大きくなり、「行くことが当たり前」だった学校が、「がんばって行くところ」だと感じている子どもたちが増えているように思います。それでも、子どもたちは心を奮い立たせながら「行ってきます!」と今日も学校に通います。学校では、勉強だけでなく、集団生活の中でしか学べない「人とのつながり」や「社会性」があります。がんばって学校に通っている子どもたちの心を、私たち大人が支え、子どもたちの健やかな成長につなげていきたいものです。
「便利になった生活の裏で失われた経験がある」私たち大人が、そのことをわかって子どもたちの育ちを応援しましょう。とは言え、急に不便な生活に戻ることは難しいでしょう。令和の子どもたちが抱える「心の葛藤」に寄り添い、支え、励まし、導いていくことが大切です。
子どもたちにとって、不安、恐れ、ストレス等のネガティブな感情は、心の中で「得体の知れないモヤモヤしたもの」として湧いてきます。私たち大人が、子どもたちの心の動きをキャッチし、子どもたちの心の中にある得体の知れないモヤモヤを言葉にして返すことができるとよいでしょう。「それは心配だったね。」「思う通りにならないこともあるよね。」「楽しいことをする時間を作ろうか。」等の言葉で励ましていくと、やがて子どもたちは、それらの言葉を自分の中に取り込み、「自分で自分を励ますこと」ができるようになってきます。子どもたちは、心の葛藤を大人にキャッチしてもらい、共感してもらった安心感を基に元気を取り戻します。元気になれば、またやる気が湧いてきます。子どもたちが大人を安心基地として、勉強や社会性等、たくさんの経験を積み上げながら成長していってくれることを望んでいます。
時代の変化によって、これまでの「当たり前」が、今は「特別」になっていることも珍しくありません。令和の子どもたちは、私たち大人が育ってきた常識とは違う次元で生きています。私たち大人は、そのことをわかった上で、子どもたちに寄り添い、支え、励まし、導いていける存在でありたいものです。
私は、通級指導教室の担当として、教育支援委員会の教育相談担当として、伊根町内の保育園・所、小学校、中学校で、指導や教育相談を行っています。子どもの発達相談、教育相談のご希望がありましたら、お気軽にご相談ください。
