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■日本の狂犬病予防の歴史

狂犬病は、発症すると致死率がほぼ100%の病気で、あらゆる哺乳類に感染する可能性があることから、予防が非常に重要です。現在、犬を飼う際には年1回の予防接種が法律で義務付けられていますが、今回はその歴史について紹介します。
日本における狂犬病の流行は、享保17(1732)年に輸入された犬の中に狂犬病の犬がいたため、長崎から日本全国へ広まったことが記録されています。享保18(1733)年3月16日、岩国の歴史を年代ごとに記録した「岩邑(がんゆう)年代記」にも、「三月頃より狂犬多く、人に噛付。俗に云、はしか犬(九州より流行し来る)」という記述があり、岩国でも狂犬病が広まったことが確認できます。江戸時代中期から発生と流行を繰り返していましたが、当時は効果のある予防法はありませんでした。
1885年、フランスの微生物学者であるルイ・パスツールが、狂犬病のワクチンを開発し、予防が可能になりました。日本では大正5(1916)年に、獣医学博士の梅野信吉が犬用の狂犬病ワクチンを実用化し、犬の感染症を防げるようになりました。犬の感染対策を行うことで、人への感染リスクの低減にもつながることから、犬への狂犬病の予防接種が行われるようになりました。
昭和25(1950)年、狂犬病の発生や蔓延を防止するため、狂犬病予防法が施行されました。この法律は、飼い犬への予防接種の義務化だけでなく、犬の登録や輸出入時の検疫なども定められています。岩国でも同年6月3日の「興風時報(※1)」には、狂犬病の予防接種をしていない飼い犬に対して、市役所にて100円で行うことが記事として書かれています。
その後、狂犬病の発生は減少し、昭和32年を最後に日本国内での発生は確認されていません。
このように、昭和時代まで非常に恐れられていた狂犬病は、犬への予防接種により日本での発生が抑制されたことがうかがえます。

※1 大正6(1917)年から昭和31年まで発行し、岩国地域の情報を伝えた新聞(中央図書館で閲覧できます)

・5月18日(日)から企画展「昭和時代の岩国」を開催します。

▽岩国徴古館(いわくにちょうこかん)
昭和20年に旧岩国藩主吉川家によって建てられ、その後岩国市に移管された市立の博物館
住所:横山二丁目7-19
【電話】41-0452
休館日:月曜(祝日の場合はその翌日)