くらし 長崎県立大学 シーボルト校研究紹介 Vol.58

長与町に立地する長崎県立大学シーボルト校。すぐ近くの大学でどのような研究が行われているかをシリーズで紹介していきます。

◆音によるヒトの世界の捉え方を知る・活かす
情報システム学部 情報システム学科
中 貴一 講師

私は音響学を専門としています。しかし、音響学とは音にまつわる学際分野であり、その対象は工学・心理学・芸術学・哲学など多岐に渡ります。すべてに興味はありますが、私のメインターゲットは「ヒトの認知情報処理」です。

「ヒトの認知情報処理」の中でも、ヒトと環境の接続に興味があります。私たちがどのように世界を捉えているか、とも言えるでしょう。例として、音の定位(どの方向から音が聞こえるのかを認識すること)の仕組みを少し紹介します。右から音が聞こえる時、方向がわかるのはなぜでしょう。手がかりは様々ですが、ひとつは音が両耳に届く時間差です。左耳より右耳に音がわずかに早く届くという情報を用い、音の方向を捉えています。一方、テレビの音はどうでしょう。役者さんがセリフを発している時、スピーカの位置は違っても、口から声が聞こえる気もします。いわゆる腹話術効果というもので、私たちはヒトの声が口から発せられることを日々経験しているため、経験則に基づき見た目に聞こえが補正されます。音の定位はひとつの例ですが、私たちの世界の認識は、微小な物理的手がかりから経験則まで、多層的な情報を通じて形成されます。

私たちの世界の捉え方を科学的に説明できれば、デザインにも役立てられます。例えば注意の仕組みがわかれば、効果的に注意を誘導する方法を考えることに役立ち、自動車の情報提示などに応用できます。デザインのヒントとなるヒトの仕組みを理解して、実環境にその知見を活かすことも重要な課題です。

また最近は、ヒトの世界の捉え方は想像以上に自由であることもわかってきました。音で体の形が変わったり、自分のものでない耳での聞こえに適応したり。ヴァーチャルな世界が当たり前になってきた昨今で、思いもよらぬヒトの情報処理の仕組みも明らかになってきました。もしかすると、ヒトの新しい能力開花にもつながるかも。ということを考えながら、音と向き合う日々を過ごしています。